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 人工知能(AI)のセミナーやシンポジウムが花盛りだ。

 車の自動運転に代表される、AIがもたらす明るく快適な未来。その裏側で、人間の制御を超えて世界を根底から変えてしまう「シンギュラリティー(技術的特異点)」と呼ばれる事態が訪れるのではないか、という漠とした不安も広がる。

 技術は時として、予想をはるかに上回る速度で進む。AIもそんな段階に入ったのか。人間はAIにどう向き合うべきか。そして、これからの時代に備えた人づくりとは――。

 本格的に考えなければならない時期に来ている。

 ■笑顔と失業と

 いまの社会的ブームの大きなきっかけは、2年前に囲碁AI「アルファ碁」が世界最強とされた棋士を破ったことだった。

 データ処理能力の飛躍的進歩が生んだAIは、生活を豊かに変える可能性を秘める。

 静岡大学の竹林洋一特任教授らは、高齢者介護の質の向上に活用しようとしている。

 お年寄りへの声のかけ方ひとつをとっても、介護する者の姿勢や位置、音の調子、高低、タッチの有無など、多くの要素から成る。実際の画像をもとにそれらを解析すれば、お年寄りを笑顔にするアプローチを定式化できる。優れた介護者の育成に役立つだけでなく、認知症に関する知見の深化や理解につながることが期待される。

 一方、AI時代に対する不安の中で、最も現実味をもって語られるのが雇用への影響だ。

 AI搭載のロボットは複雑な生産現場にも進出するだろう。大量で多様なデータを公正・迅速に評価することが求められる市場調査、融資の判断、さらには人事業務にも導入が進む。十数年後にはホワイトカラーの仕事の半分がAIに置きかえられるという見方もある。

 ■人にしかできぬこと

 AIを活用しつつ、人間らしく働き、生活するにはどうしたらいいのか。

 「AIは統計などを使って機械的に答えを出すだけで、物事の意味はわかっていない。だから、その意味を理解し、適切に状況判断できる能力を養うことが、人にとって何より大切だ」

 国立情報学研究所の新井紀子教授はそう話す。

 基本となるのは、正確に読み正確に書くという、昔ながらの力だという。デジタル時代は、メールなど文字情報のやりとりが仕事に占める割合が高く、「誤読や表現力不足によってつまずくことが少なくない」と見る。教科書や新聞の文章を使った読解力テストを独自に開発し、中高生らに受けてもらって弱点を探っている。

 結果は、能動態と受動態の違いに気がつかない、文章で説明されている内容に合致する図が選べない――など、決して芳しいものではない。

 だが、嘆いていても始まらない。協力した学校の先生たちからは、「分かっていないことが分かった」ことを前向きにとらえ、授業方法の改善を探る動きが出ているという。

 人間は計算力や記憶力でコンピューターに及ばない。それでも困らないのは、道具として使いこなせているからだ。AIについても本質は変わらない。大切なのは、AIをどう制御し、人間の幸せのために役立てるかを考え、その方向に社会を構築していくことだ。

 ■アシロマの挑戦再び

 昨年1月、米カリフォルニア州アシロマに、AI研究者や法律、倫理、哲学などの専門家が集い、AI開発に際して守るべき23の原則をまとめた。

 「人間の尊厳、権利、自由、文化的多様性に適合するように設計され、運用されるべきである」といった理念をかかげ、AI軍拡競争の回避や研究者同士の協力、政策立案者との健全な交流なども盛り込んだ。

 このアシロマ原則は各国政府や多くの研究者を刺激し、さらに具体的な指針づくりをめざす動きが盛んになっている。

 日本の人工知能学会倫理委員会は、米国の学会やNPOと提携して、インターネットを使った市民対話を開いている。

 「公益のためのAI」や「労働に対するAIの影響」などのテーマ別に、誰でも、投稿された意見や疑問を読み、自ら書き込むことができる。ことし2月まで意見を交換し、それを踏まえて実行可能な政策を提言することをめざしている。

 国家や企業が入り乱れて開発を競うなか、いかに秩序を維持し、人類の幸福につなげるか。

 難題ではある。だがアシロマといえば、43年前に世界の科学者が集まって遺伝子組み換え技術の研究指針を議論し、一定の規制を実現させた、科学史にその名を刻む地だ。

 AIの専門家にかぎらず、人文・社会科学の研究者らも広く巻きこみ、政治家や官僚、そして市民との対話を重ねる。その営みが人間中心の社会でのAI活用につながると信じたい。

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