[PR]

 教育にかかる費用を社会全体で担っていかなければ、日本は立ちゆかなくなる――。そんな認識が共有されつつある。

 昨年の衆院選では各党がこぞって「教育の無償化」を訴え、政府も2兆円の政策パッケージを打ち出した。家庭の貧富の差は学力や進学の格差を再生産し、人々に分断をもたらす。この連鎖を断とうと、政治がようやく動いたといえる。

 同時に限界も浮き彫りになった。たとえば、大学・専門学校などの授業料減免や奨学金充実に年間8千億円を投じるというが、カバーできるのは進学者全体のごく一部に限られる。国の財政事情を考えると、大幅な拡大は当面望めそうもない。

 だれもがお金の心配をせず、必要な教育を受けられる社会に少しでも近づくために、いま、できることは何か。

 税を適切に集め、再分配機能を高める「公助」が本来の道だと確認したうえで、人と人とが支え合う「共助」を探るユニークな取り組みを紹介したい。公助の乏しさを補う知恵だ。

 ■「下宿」の復活

 たとえば、「異世代同居」という試みがある。

 高齢者の家の空き部屋を学生の下宿用に貸し出す。京都では官と民が連携して、東京や福井ではNPOや大学の研究室などが、それぞれ進めている。

 学生は相場より安く住めて、高齢者の孤立も防げる。実際、下宿生が救急車を呼んで家主を助けた例もあるという。

 利点は、それだけにとどまらない。

 京都のある下宿生は、自分の専攻と老夫婦の元の職業が同じデザイン関係だ。大学で「食を楽しむデザイン」という宿題が出たときは、居間で一緒にアイデア出しをした。

 「家に先生がいる感じ」と学生が言えば、夫婦は「誰かの役に立つのはうれしい」と話す。

 先達の経験に学んだり、次世代に自分の蓄積を伝えたり。経済性や安全・安心のような「利害の一致」だけでなく、「心の一致」が生まれている。

 京都の場合、府の委託を受けた民間の5団体がお年寄りと学生の仲介役を担う。相性も見定めて慎重に進めるため、マッチングを始めて1年余で、同居が成立したのはまだ7組だ。だが手応えを感じている。

 もっと実績を増やし、事業として軌道に乗せたい。そのためには「人」と、高額でなくても「お金」が欠かせない。

 どんな活動にもついてまわる課題である。

 ■功を奏した工夫

 そのお金を調達する方策として注目された動きがある。

 塾に通えない高校受験の中学3年生に、塾代に使える20万円分のクーポンを贈ろう――。民間の団体や企業で運営する「スタディクーポン・イニシアティブ」の呼びかけに、昨年秋、目標の1千万円を上回る1400万円が集まった。

 いくつかの工夫が奏功した。

 まず塾代の支援と銘打ったこと。学校外の教育にかけられる費用は家庭の経済状態で開きがあり、それが進学格差を生む。現実を踏まえたわかりやすい訴えが共感を呼んだ。

 そして、ネットで寄付を募るクラウドファンディングを活用したこと。寄付者の7割は30代以下で、最少単位とした5千円を寄せた人が全体の6割を占めた。若い世代を中心に、広く薄く支持が広がった。

 「自分が出したお金で、人や地域の未来が少しずつ変わっていく。そう実感してもらえれば継続的な支えにつながる」。代表の今井悠介さん(31)は言う。

 クーポンを贈る生徒には、あわせて学生のスタッフを「伴走役」につける。各地で無料学習支援に取り組んできた民間団体は、勉強だけでなく心を支えることを大切にしてきた。手法は少し違っても、その精神は相通じるものがある。

 ■まず身の回りから

 スタディクーポンの事業は東京都渋谷区と連携して行う。学校を通じて案内が配られるため、支援が必要な家庭に確実に情報が伝わる。行政側にとっても、公教育の外の領域にある需要に、民間の力を借りながら手を差し伸べることができる。

 今井さんのもとには他の自治体からも問い合わせが届く。必要な費用がしっかり予算計上されるのが理想だが、使い道を指定したふるさと納税を活用するアイデアも浮上している。返礼品めあてでない地域貢献だ。

 ほかにも、教育や若者支援をめぐる「共助」の取り組みは各地にある。公営団地の空き住戸を学生に安く提供し、地域ににぎわいを取り戻す施策なども、そのひとつだ。地域の課題と思われていたものを、強みに転じさせる工夫でもある。

 国・地方を問わず財政事情は厳しい。制約はあっても、柔軟な発想で教育の機会均等と充実を進めなくてはならない。持続可能な支え合いの仕組みを、身近なところから探りたい。

こんなニュースも