[PR]

 最高裁の長官に大谷直人氏が就任し、これからの司法のかじ取りに当たることになった。

 近年「多数こそ正義」の風潮がはびこり、政治の世界でも、選挙に勝ったのだから何でも許されるとばかりに、抑制と均衡を欠く振る舞いがまかり通る。

 政治改革のひとつの帰結として立法と行政の一体化が進むなか、両者を監視し、真の「法の支配」を貫くために司法が果たすべき使命はいよいよ重い。

 憲法の原則に忠実に、弱者や少数者の権利を守り、多様な価値観が並び立つ社会を築く。

 重要な憲法判断を行う大法廷の裁判長を務める長官はもとより、司法の権能を担うすべての人に、あらためて自らの責務を胸に刻んでほしい。

 個別事件の審理とあわせ、長官に課せられた仕事は、司法を使いやすく、頼りがいのあるものにするための環境の整備だ。

 直面する大きな課題に成年後見制度の円滑な運用がある。

 お年寄りなど判断能力が衰えた人の財産管理や契約行為を、社会で支えるニーズは年々高まっている。だが、後見人をつけるか否かを決定し、不正がないように監督する家裁には、想定外の細かな相談も持ち込まれ、手いっぱいの状態だ。

 政府は昨年、地域で支援が必要な人を「発見」し見守るネットワークを、全国に展開する計画を打ち出した。自治体に加えて、法律、医療、福祉、金融の専門機関やNPOと認識を共有し、連携の実をあげるには、当面、実情に通じた家裁が中核になって動くしかない。

 人材を手厚く配置するなど裁判所総体でとり組み、人々の権利の擁護に努めてもらいたい。

 IT(情報技術)を活用し、民事裁判の書面の電子化や審理の効率化を図るのも、急ぐべきテーマだ。経済界などの要請を受けて内閣官房が音頭をとっているが、ITを使いこなせない人が不利益を被るようなことがあってはならない。ここでも、現場をあずかる裁判所の知恵と工夫が求められる。

 裁判員制度は間もなく実施から10年目に入る。

 法律家による証拠や主張の事前整理に時間がかかって初公判の期日がずれ込むなど、改善すべき点はなお多い。検察、弁護の責任も大きい。生き生きとした審理を通して、国民の良識を裁判に反映させるという当初の理念を、法曹界全体でいま一度思い起こす必要がある。

 一つ一つの地道な営みを通じて司法の基盤を厚くする。そのことが、人権のとりでとして市民の負託に応える道に通じる。

こんなニュースも