[PR]

 この問題はとかく、男性加害、女性被害という構図で語られる――。アンケートのそんな回答を最初の紙面で紹介しました。今回は声を一層上げにくいことのある男性の被害や、男性としての「#MeToo」との向き合い方についてです。取材班の男性記者が自分の気持ちの変化をたどります。

 ■「タフな男性像」の中で…

 朝日新聞デジタルに男性から寄せられた、被害体験や#MeTooに対する意見の一部です。

    ◇

 ●「国内ではないですが同性にレイプされかける経験をしました。親切な青年の救援を得て事なきを得ましたが、経験してわかる性暴力経験のつらさというものはやはりあります。その痛みの何万分の一でも経験も想像もできない人に想像してもらうために#MeTooは貴重な運動だと思います。人の不幸というものに対する共感が得にくい現代社会ですが、男女ジェンダーにかぎらず多くの人が声を上げるようになれば変わるのではないか。そこに一縷(いちる)の望みを託しています」

 (東京都・40代)

 ●「以前つきあっていた子が過去に性被害に遭ったことがあり、知らずにスキンシップを求めてひどく傷つけてしまったことがあります。最近の#MeTooの動きの中で彼女以外にも私の周りにいる女性で多かれ少なかれ同じような被害に遭ったことがある人が相当数いることに驚き、性犯罪の防止はもちろん、私のように知らずに2次被害を与えてしまう者が出ないよう、被害者が声をあげやすい環境を作る必要を感じています」

 (埼玉県・40代)

 ●「50歳の男性です。男にとって何げない言動や行動が性被害になり得ることを知りました。自分にも中学生の娘がいます。娘たちが安心して生活できるように性被害のない日本をみんなでつくっていきたいです。最近、行司への性被害がありました。性的なことは男も女も関係なく、嫌なことは嫌と言えるような日本になってほしいです」

 (神奈川県・50代)

 ●「7歳でいとこから性的接触を強要され、高校入学すぐに上級生から有害図書を受け取るよう脅された。性的な嫌悪やジレンマに、頓着しない、混乱を見せないのがタフな男性像だ、という思想を、体育会系的風土のなかで受けつぎ強めていっている感がある。若い被害者のジレンマはより見えにくい」

 (埼玉県・30代)

 ●「高校生のときにバスの中でセクハラにあいました。空席が多いのに、40代とおぼしきかっぷくの良い女性が座っている私の前に立ち、次第に太ももを私の股にすり寄せ、長いこと揺すっていました。私は硬直し寝たふりをするしかありませんでした。当時気持ち悪くて、友達と笑い話にもできませんでした。はじめて明かす話です」

 (新潟県・40代)

 ●「声を上げること自体は否定しませんが、現在の#MeTooは『セクハラや暴力をした相手をおとしめる』という風潮が強すぎるのではないかと感じます。やっていることが正しいとしても、どうしても共感できないのです。純粋に『セクハラや暴力をなくそう!』という運動であれば応援できるのですが……」

 (東京都・30代)

 ●「中学生の頃、男性に強姦(ごうかん)されました。25年以上前、セクハラなどという概念は知らず、また周りに知られたらかえっていじめにあうかも知れないと思い、男子中学生だった自分は口をつぐまざるをえませんでした。自分はLGBTで、ずっとそれが乱暴された原因だと思っていました。大切なのは、自分を責めないことだと思います。私たちには何の問題もないのだから」

 (東京都・40代)

 ■「被害に遭わない」との偏見も

 警察庁の統計によると、2016年に強制わいせつの被害に遭った男性は247人(全体6188人)。強姦(ごうかん)については、刑法が被害者を女性のみ対象にしていたため、男性被害は数えてきませんでした。

 昨年の刑法改正で初めて、強姦は強制性交に変わり、男性被害者も想定されることに。警察が昨年、認知した強制性交は1111件で、うち男性の被害は16件でした。

 刑法改正を受けて、内閣府暴力対策推進室も3年ごとの「男女間における暴力に関する調査」の質問項目を見直しました。4月に公表予定の調査結果は、無理やり性交された男性や、同性の交際相手からの暴力被害の実態を類推できる、初めての国のデータになるとみられます。

 犯罪被害者のケアに詳しい武蔵野大の小西聖子教授は、女性の被害に比べて圧倒的に少ないものの、「子ども同士の性的ないじめ、小児性愛の被害、家庭での性的虐待などを含めれば、男性被害はかなり多い」とみています。

 しかし、女性以上に男性は声を上げづらい、と指摘。「男性は被害者にならないという偏見もあるし、被害について話すことは自分の弱みを見せることで恥である、という意識を強く持つからだ」と言います。

 刑務所や軍隊での性暴力や、会社の男性同士の飲み会で無理やり裸にされた、といったケースをみると、加害者は性行為が目的というよりも、人を意のままにしたい「パワーの誇示」として暴力を振るっている場合がある、と小西教授は分析します。力関係で弱い立場にあったことを示すことになるため、被害について他人に話しづらいというわけです。

 (冨岡史穂)

 ■「関係ない」と遠ざけるな 男性学を研究する伊藤公雄・京都産業大教授

 #MeTooに、男性としてどう向き合えばいいのでしょうか。男性の非暴力運動ホワイトリボンキャンペーン・ジャパンの共同代表で男性学研究で知られる伊藤公雄・京都産業大教授に聞きました。

    ◇

 多くの男性は性暴力の加害者ではありません。とはいえ、今回のことを「自分とは関係ない」と遠ざけていては、いつ、どこで無自覚のまま女性を傷つけてしまうか、わからないままです。

 では、どうするか。まずは、世の中の多くの男性が、実は女性を対等ではなく、支配や依存の対象として捉えていると知ることです。あなたは女性がお茶を入れてくれないと「気にくわない」と思うことはありませんか。「多少のわがままを言っても、女性はサポートしてくれる」と考えていませんか。

 点検の方法があります。今回の#MeTooのことを身近な女性と話してみるのです。そして、あなたがこれまで相手に嫌な思いをさせていなかったか、素直に聞いてみてください。まずは自分を顧みて、自覚するところから始めましょう。

 一方、男性の性暴力被害者にも目を向ける必要があります。今のところほとんど相談窓口がなく、「男性が被害に遭うはずがない」という社会の見方もあり、より被害を言い出しにくいのが実情です。性暴力による男性へのダメージは、戦争体験より大きいという見方もあります。

 性暴力をなくすために重要なのは加害者にならないのはもちろん、傍観者にもならないことです。暴力を見たら、すぐに止める。それが難しければ、通報する。見て見ぬふりはいけません。今回の#MeTooの動きを、暴力のない社会に変えるきっかけにしていきましょう。

 (聞き手・斎藤健一郎)

 ■知らないうちに自分も加害者に…?

 #MeTooで上がった女性被害の声を初めて目にした時、「なんてひどいことだ」と怒りがわきました。こんなことをする男がいるのか、と。でも、だんだん、心持ちは「恐ろしい」に変わっていきました。

 自分も気づかないうちに女性を傷つけたことがあったのではないかと考えたからです。相手のとらえ方一つで、あっという間に「加害者」になることほど、怖いことはありません。もう一つは、抗弁も許されないまま、「加害」がSNSを通じて瞬く間に世界中にさらされてしまうことです。

 だから、フランスの俳優カトリーヌ・ドヌーブさんたち女性側から「口説く自由はある」と異論が出たときは、正直ホッとしました。でも、批判の声を受けて彼女はすぐ謝罪しました。この問題については口を閉ざした方が安全かもしれないと思うほどでした。

 多くの男性は、女性を不当に差別したいとも、おとしめたいとも思っていないはずで、僕もその一人です。どうすればいいのか……。

 男性学のパイオニアである伊藤公雄教授と話して、少し光明が差しました。「まずは無自覚を自覚することから」。そうだ。怖がることなく、周囲の女性に尋ねてみよう。「今まで嫌な思いさせてきましたか」と。性暴力のない世の中にしたいと思っているのは、男女とも同じ。対話を重ねることで、きっと分断を超えられると信じます。

 (斎藤健一郎)

 ◇「#MeToo」どう考える? 「4」は28日、「5」は29日に掲載します。

 ◇アンケート「声を上げにくい空気」を24日までhttp://t.asahi.com/forum別ウインドウで開きますで実施中です。ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするでも募集しています。

こんなニュースも