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 不正が起きた背景を検証し、社会全体で共有して、再発防止に役立てなければならない。

 京都大iPS細胞研究所の助教(36)が昨年発表した論文のデータに、捏造(ねつぞう)や改ざんが確認された。本人は「論文の見栄えを良くしたかった」と話しているというが、結論そのものをゆがめる重大な行いである。

 今後は、実験経過を記録したノートの提出を徹底させ、チェックを強化するというが、それにも限界はある。不正は実績ある研究者にも報告されている。それぞれの大学や研究機関は、改ざんなどを起こしにくい環境づくりに取り組み、たとえ誤りがあっても発表前に正せる仕組みの整備を急ぐ必要がある。

 今回の事件で気になるのは、問題の助教以外の10人の共著者が、不正を察知できなかったことだ。助教が一人でデータを解析し、グラフを作成したというが、みんなで生データを共有して検討を重ねていれば、気づけたかも知れない。分業化や細分化が進み、研究者同士がコミュニケーション不足に陥っていた可能性はないか。

 iPS細胞を中心とする再生医療や創薬の研究に、国は13年度からの10年間で1100億円を投じる目標を掲げる。成果への期待が強い一方で、同研究所のスタッフの多くは通常5年間の任期付きで雇われている。

 この助教も今年3月に期限を迎えるというが、就任してから論文を発表できていなかった。焦っていたとしてもおかしくはない。もちろん、不安定な雇用環境や研究費獲得のための厳しい競争は、改ざんなどを正当化する理由にはならない。だが、不正が頻発するひとつの原因になってはいないか、議論を深めるべきだ。

 倫理教育を充実させていくことも欠かせない。

 ネットを通じて他人の論文を簡単にコピーでき、図表や画像もパソコンで気軽に作成できる。どこまでが許され、何をすれば不正に当たるのかという基本的な心得を、学生のころから身につけさせる必要がある。

 ただ、「不正をするな」と繰り返すだけでは不十分だ。近年注目されるのは、「どんな研究者でありたいか」を考え、誇れる研究者像に近づくことに価値を見いだす「志向倫理」の教育である。やってはいけないことを一方的に教え込むのではなく、内発的に「そんなことはしない」と意識づけさせるもので、グループ討論などの手法が有効といわれる。

 さまざまなアプローチからの地道な取り組みが肝要だ。

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