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 (平成5年)

 一世一代の晴れの日だからと結婚式が派手な演出を競った時代もあった。昨今のカップルが望むのは「自分たちらしい一日」。変化は、1993年に結婚情報専門誌が創刊されたあたりから始まった。

 花婿の家に親族らが集まり、角隠しに白無垢(むく)の花嫁、黒い袴(はかま)の新郎が金屏風(びょうぶ)の前に並び、三三九度の杯を交わす。テレビドラマなどで目にするこんな昔ながらの婚礼は、「日本民俗大辞典・上」(1999年刊)によれば、様々な儀礼を1日に凝縮した「嫁入婚」で、生家から婿の家に移った嫁の披露を最重視している。宗教風な色彩が加わるのは古いことではなく、一般への普及は第2次世界大戦からしばらく後、という。

 東京朝日新聞は1892年、石川県内の神官たちが「日本臣民の結婚式を神前に於て擧行」することを「帝国上下両院に請願せん」とする動きを報じた。離婚や不倫が容易だと国風が損なわれる、泰西の文明各国も天帝に誓わなければ結婚できない、日本の結婚も神の支配を受けるべきだ、などと訴えている。

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 1900年に大正天皇が結婚したのを記念し、日比谷大神宮(現・東京大神宮)が一般向けに神前結婚式を創始した。神前式が盛んになったが、戦時下には簡略化、質素化が奨励された。

 戦後、結婚式産業に西洋化が押し寄せる。今の天皇、皇后両陛下の59年のご成婚パレードは人々をテレビに釘付けにした。65年にはプロ野球選手の長嶋茂雄さんと西村亜希子さんがカトリック渋谷教会で挙式、ホテルニューオータニで披露宴を行った。その後も著名人の結婚式はメディアで報じられ、話題を集めた。

 独立した結婚式場、チャペルを備えたホテルは、80年代のバブル期までに全国に広がり、豪華な建物や演出でも競い合った。一方で85年の朝日新聞「声」欄では、横浜市の46歳の主婦が、ケーキ入刀でのドライアイス、ロウソク点火でのシャボン玉など「結婚式のショー化」は楽しいが、「心が忘れ去られるのが心配」と訴えた。同じ年、結婚式の目的が、家や親の体面を保つ「儀式」から、友達同士の「イベント」へと変化したと指摘する記事も載った。

 93年、リクルートが結婚情報誌「ゼクシィ」を創刊。「自分たちらしい結婚式」を求める世代が歓迎した。地域の様々な会場のサービスや価格を一覧比較できるのは画期的で、マナー本的な要素も魅力だった。トレンドを調査、発信する役割でも注目され、たとえば95年の同誌調査では、既婚女性の約4割が「仲人を立てなかった」と回答したことなどが報じられた。

 ちなみにゼクシィ結婚トレンド調査2017によると、首都圏で仲人を立てた人は1・1%。実施形式はキリスト教式57%(2011年64%)、無宗教の人前式22・7%(同15・5%)、神前式19・3%(同18・7%)だった。

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 近年の「らしさ」の演出では、思い出の写真を次々映し、感動的なBGMとともに2人の人生やなれそめを伝える映像を使った余興や演出が人気だ。前述の調査でも映像による余興・演出の実施回数は、09年の2・1回から17年には2・8回まで増加。アプリなどで映像を手作りする新郎新婦も増加傾向にある。

 「個人が写真や動画を潤沢に持っているスマホ時代ならではの演出」と語るのは、「一般社団法人音楽特定利用促進機構」(ISUM〈アイサム〉)の代表理事、アレクサンダー・アブラモフさん(67)。映像に流行歌を使うと、著作権や著作隣接権が発生する。そこで音楽業界、ブライダル業界を仲立ちする形でISUMを13年に設立、権利使用申請と料金の支払いを代行してきた。新郎新婦が支払うのは1曲2千円、5曲で5千円。対象曲は1万曲以上。「人前で言葉にして言いにくい気持ちも、歌はそっと伝えてくれますよ」

 気になる調査もある。経済産業省の第3次産業活動指数を見ると、結婚式場業は10年を100とすると、15年は70前後。その落ち込みは婚姻数の漸減より大きい。既婚、独身、伴侶に先立たれた人もあわせ「人生の節目を祝う宴」の市場が生まれるべき時代が到来したのかも知れない。(寺下真理加)

 ■「選ぶ」「決める」価値観を映す リクルート「ゼクシィ」編集長・平山彩子さん(33)

 ゼクシィは社内のビジネスコンテストで生まれた雑誌です。1980年代の「派手婚」から、90年代の「地味婚」時代への移行期。2000年代には、洋風の邸宅を借り切って、リラックスした雰囲気で交流できる「ゲストハウスウェディング」が広がります。昨年の調査では、挙式・披露宴にかかった費用の全国平均は354・8万円で増加傾向、招待客人数は70・2人で減少傾向にあります。

 昨年は「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」というコピーを掲げました。かつて「普通はすること」として語られた結婚は、今は生き方の選択肢の一つ。「片方からのプロポーズで決まるのではなく、二人で決める、二人が決める」と考えるカップルも増えています。

 一方で、11年3月の東日本大震災以後、支え合って生きることの価値が再確認され、「つながり婚」が注目を集めました。弊社の調査では同居の状態から結婚した人の割合は、10年には7割でしたが、17年には8割に増えています。支え合う日常生活の延長線上で自然と結婚に至り、気負わずに家族やお世話になった方々に報告、感謝する。そんな「ありのまま婚」とも呼べるような本質的なかたちに、現代の結婚観は立ち返ろうとしているのかも知れません。

 ■余興・演出に使えるISUM登録曲の例

 AI「ハピネス」/安室奈美恵「CAN YOU CELEBRATE?」/絢香「にじいろ」/いきものがかり「ありがとう」/ウルフルズ「バンザイ~好きでよかった~」/小田和正「たしかなこと」/木村カエラ「Butterfly」/Superfly「愛をこめて花束を」/ケツメイシ「君とつくる未来」/コブクロ「Million Films」/西野カナ「トリセツ」/秦基博「ひまわりの約束」/福山雅治「家族になろうよ」/BENI「永遠」/星野源「恋」/MISIA「幸せをフォーエバー」/ONE OK ROCK「Wherever you are」

 ■親も祖父母も上司も喜ぶ(?)カラオケでも人気の曲(ISUM登録曲以外も含む)

 GLAY「HOWEVER」(※結婚式での楽曲利用の著作隣接権は無償)/郷ひろみ「お嫁サンバ」/小柳ルミ子「瀬戸の花嫁」/さだまさし「関白宣言」/SMAP「らいおんハート」/チェリッシュ「てんとう虫のサンバ」/中島みゆき「糸」/長渕剛「乾杯」/新沼謙治「嫁に来ないか」/中山美穂&WANDS「世界中の誰よりきっと」/森高千里「私がオバさんになっても」/山口百恵「秋桜」

 (CD自体をBGMで流すか、楽器演奏やカラオケの場合、会場が著作権料を支払っていれば無料。曲をCD-Rなどにコピーして会場で流す場合は複製権が発生するので有料)

 ◇次回は「高知競馬のハルウララ」の予定です。

 <訂正して、おわびします>

 ▼1月31日付「あのときそれから・結婚情報誌『ゼクシィ』創刊」の記事で、「1900年には大正天皇が日比谷大神宮(現・東京大神宮)で挙式」とあるのは、「1900年に大正天皇が結婚したのを記念し、日比谷大神宮(現・東京大神宮)が一般向けに神前結婚式を創始した」の誤りでした。取材が不十分で、宮中の公式な儀式とは別に、一般向けの式に夫妻が協力して臨席したと誤解しました。

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