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 地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」で掲げた「産業革命からの気温上昇2度未満」にするために残された時間は――。大気中の浮遊物質や水の循環、温室効果ガスを宇宙から観測し、高精度に温暖化を予測する試みが続けられている。

 パリで2015年にあった国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)では、国際的枠組み「パリ協定」が採択された。協定は、各国が温室効果ガスを削減し、産業革命前から温度の上昇を2度より十分低く抑えるという目標を掲げている。

 この目標を達成するには、温室効果をもたらす二酸化炭素(CO2)の排出上限量を予測した上で、対策を進める必要がある。だが、現在の予測モデルでは、産業革命前からの排出上限量は「2兆5500億トン~3兆1500億トン」と幅がある。CO2以外の温室効果ガスの排出量や、気温変化に関わる他の要素をどう評価するのかによって予測が変わるためだ。

 予測モデルの精度を高めるため、近年注目されているのが、大気中に浮遊する固体や液体の粒子「エーロゾル」だ。エーロゾルは、太陽光を反射・吸収して地表の温度を下げたり、水蒸気から雲ができる際に「核」になったりする。

 エーロゾルは、黄砂や化石燃料を燃やして生じる黒色炭素、花粉など様々なものがある。国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書では5種について温暖化への影響を試算しているが、観測が難しかった。

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)が昨年打ち上げた気候変動観測衛星「しきさい」は、特殊なフィルムを貼ったセンサーで、エーロゾルを詳しく調べられることが特徴だ。煙のようなエーロゾルは、海が背景だと捉えやすいが、光を反射しやすい陸では難しい。フィルムを通すことで、背景の余分な光を抑えて、精度を高めた。

 中島映至・地球観測研究センター長は「今後、知られていなかった新たな粒子が見つかる可能性もある」と期待する。

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 温暖化が進むと、雲が雨になり、海に流れて蒸発するという一連の循環が、地球規模で変化して、集中豪雨が増えたり、寒暖の差が大きくなったりする。沖理子・JAXA研究領域上席は「循環は約10日で進むほど変化が大きい。水の動きを知ることが温暖化の理解には重要」と話す。

 だが、その動きは十分には把握されていない。水循環を調べる衛星「しずく」の観測で、北極海の海氷の面積は、07年と12年(318万平方キロ)に最小を更新した。過去のデータから、17年にはさらに小さくなると考えられていたが、多くの予想に反して南極域の海氷の面積が過去最小になった。

 JAXA地球観測研究センターの可知美佐子さんは「昨年まで南極域の海氷は減るとは考えられていなかった。温暖化や水の循環について、まだ理解が不足している」と話す。

 メカニズムの解明には、細かな間隔で観測する必要がある。現在、「しずく」や米航空宇宙局(NASA)の「アクア」など6機の衛星が数分間隔で同じ軌道を飛び、雲や大気の組成など、異なる観測機器で大気や地表を立体的に見て、多角的に捉えようとしている。

 このほか、全球降水観測(GPM)計画では、計8機の衛星を使って雲の生成を捉え、豪雨などの解明に取り組んでいる。

 沖さんは「地球に降り注ぐ太陽のエネルギーを再分配しているのが水。水が気体、液体と変化するときにエネルギーの放出や吸収があり、どこで風が吹くか、雨が降るか、雲ができるか決まる。北極の海氷や海面温度の上昇のようなシグナルをいち早くとらえるためにも継続した観測が必要」と話している。

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 パリ協定の締約国は、統計データから自国の温室効果ガス排出量の一覧表(インベントリ)を算出して報告する必要があるが、世界には排出量の見積もりが甘い国や、算定に必要な技術を持たない途上国もある。

 「温暖化の最前線の国では、自分でデータを集めたり、観測したりする能力が不足していることを忘れるべきではない」。17年12月、協定採択2年を記念してパリで開かれた国際イベントで、世界気象機関(WMO)のペッテリ・ターラス事務局長はそう訴えた。

 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」が09~14年に北米約4700点、アジア約5600点で計って算出した二酸化炭素の濃度は、各国などが出す統計データから算出した濃度とおおむね一致。一方で東アジアの一部などでは、誤差とは言えないレベルのズレも確認できた。

 ただ、各国の対策に生かすには、一つの観測データだけでは精度の限界もある。そこで、JAXAや国立環境研究所と欧州宇宙機関は昨年12月、「いぶき」と後継の「いぶき2号」と各宇宙機関の衛星のデータを互いに検証して信頼性を高めるために協定を結んだ。

 19年5月にあるIPCCの総会は日本も誘致しており、衛星を活用した温室効果ガスの排出推定方法についても議論されるとみられる。環境省の担当者は「衛星データによって、各国の現状や取り組みの進み具合の透明性を高めることが出来る」と話している。(田中誠士、小坪遊)

 <昨年、史上2番目の気温> NASAは1月、17年の世界の平均気温が1880年以降の観測史上2番目の高さだったと発表した。17年の地球表面の平均気温は、基準とする20世紀半ばを0.9度上回った。CO2などの排出増加が背景にあるとし、「急激な温暖化傾向」だと警告している。

 <訂正して、おわびします>

 ▼11日付科学の扉面「宇宙から温暖化予測」の記事で、2012年の北極海の海氷の最小面積が「318平方キロ」とあるのは、「318万平方キロ」の誤りでした。確認が不十分でした。

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