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 肉が焼ける時のジュージューという音。英語ではシズル(sizzle)といい、そこから転じて食欲や購買意欲をそそる広告表現などのみずみずしさ、新鮮さを「シズル感」と呼ぶ業界用語が定着しました。新聞でいえば、思わず読みたくなる記事の気配や構えです。

 昨秋の「新聞週間2017」の特設面記事(10月14日付朝刊)はその意味で刺激的でした。「一歩ずつ 取材重ね 深層に迫る」という横組み3行のタイトル下に、現場の空気をまとった記者たちが切り抜き写真でちりばめられ、そこを中心として見開きの2ページに展開していきます。記者の足音や体温が伝わる臨場感――「新聞週間」という記事の意図をくっきりと示し、新聞メディアの価値を際立たせる紙面デザインの力強さを感じました。

 私たちパブリックエディターが参加した「あすへの報道審議会」(2017年12月14日付朝刊)の紙面も、余白が効果的に生かされたレイアウトに変わり、参加した一般読者の表情とコメントが目を引きました。まもなく3月11日にあわせて、東日本大震災7年の特集が組まれることでしょう。どのようなデザインで登場するのか、いまから注目しています。

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 私自身、雑誌編集を通じてデザインと深く関わってきました。文字がびっしり詰まった誌面の時代から、さまざまな試行錯誤を重ねつつ読者の「読みたい」につながる「見せ方」を模索し続けました。朝日新聞はデザインの刷新に意欲的です。インフォメーション(情報)とグラフィックスをかけあわせた「インフォグラフィックス」と呼ばれる、表やグラフ、地図、イラスト、チャート、絵文字・絵言葉(ピクトグラム)などに工夫を凝らし、文字づかい、写真のセレクトにもセンスが感じられます。

 記事それ自体の品質や強さは大前提ですが、それを読者に向けてドライブさせるには、その特徴を分かりやすく、明快な形で読者に伝える「シズル感」の演出が不可欠です。朝日新聞では、1944年に整理部(現編集センター)に「圖案(ずあん)係」が設置されたのを嚆矢(こうし)とし、92年に整理部から「デザイン部」が独立しました。整理部は新聞の長い歴史をふまえた伝統的な見出しの付け方、記事の組み方を担当しており、新聞の保守本流を担っています。デザイン部は、単純化すれば、それに対するチャレンジャーです。

 重要なのは両者の協力関係です。新聞という定番商品の何を保守し、どこを変えるのか。基本となるのは、読者の関心にどうつなぐのか、というデザイン目線の共有です。岡村邦則東京編集センター長によれば、「新聞は毎日家庭に届けられる、いわばゴハンのようなもの。親しみや安定感をベースにしながら、匍匐(ほふく)前進的に読者の変化、新たな嗜好(しこう)に合わせていく」となります。一方、田辺貞宏報道局アートディレクターは、「絶えず適度のサプライズを与え、読者との深いコミュニケーションのきっかけを作りたい。新聞の魅力に気づきを与え、読む楽しさ、豊かさを演出できれば」というスタンスです。

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 今回、多くの方に取材して「新聞とデザイン」というテーマの大きさを改めて認識しました。とても一回では書ききれません。そこで、最近の成功事例として、金成隆一ニューヨーク特派員によるアメリカ報道にひと言触れておきたいと思います。

 一昨年の米大統領選の期間中から、金成記者のルポは読者の評判を呼びました。トランプ現象の舞台となったラストベルト(さびついた工業地帯)といわれる米国中西部から北東部を足まめに歩き、労働者たちの生の声を丹念に拾い、彼らの表情、息遣いを本紙やデジタルの記事で伝えてきました。なぜトランプなの? 想像しにくかった支持者のイメージが、抜き書きされた彼らの印象的なひと言や、親しみを感じさせるビジュアルによって、リアルに、立体的に迫ってきました。事実の発掘にかける記者の情熱もさることながら、その本領を引き出し、ルポの訴求力をスマートにもり立てたデザインの“伴走”は鮮やかでした。

 ルポが新聞の売り物であることはいまも変わりません。読者がおいそれとは行けない場所に足を運び、読者になり代わって歩き、見聞きしたことを伝える役割は、今後もおそらく変わらないでしょう。トランプ政権発足から1年、金成記者はとうとうラストベルトにアパートを借りて「住人」になったと報告します(1月21日付朝刊)。「シズル感」あふれる紙面でした。

 新聞という信頼と持続性を本質とするメディアにとって、読者の「読みたい」にどうやってアクセスするか。紙やデジタルで「読む」楽しみをどう実現するか。繰り返しますが、それがデザインに託された役割です。となれば、デザインは記事の「見てくれ」だけの問題にとどまりません。新聞のあり方(アイデンティティー)そのものを問いかける根本的な視点だということになるはずです。

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 こうの・みちかず 1953年生まれ。「婦人公論」「中央公論」「考える人」の編集長を歴任し、2017年株式会社ほぼ日に入り、ほぼ日の学校・学校長。

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