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 知的障害などがある人たちに不妊手術が強制された問題をめぐり、新たな資料が次々に明らかになっている。国を相手取り、慰謝料を求める訴訟も起きた。深刻な人権侵害の全容がはっきりしないなか、政治決着をはかる動きも出ている。▼1面参照

 不妊手術を強いられた人は少なくとも1万6475人。3割が男性だ。都道府県が報告した件数を国がまとめ、統計として残していた。1996年の法改定で強制的な手術が廃止された後、障害者らの団体や被害者は、差別を背景に人権を侵害されたとして補償や実態解明を国に求めてきた。

 だが国は、当時は適法だったとの理由で応じず、被害者の一人が今年1月、仙台地裁で国家賠償訴訟に踏み切った。今月、仙台弁護士会などが全国5カ所に設けた電話窓口には、手術を受けた本人や親族から計10件の相談が寄せられた。

 被害を裏付ける具体的な資料が残っている可能性が高いのは、国ではなく都道府県だが、保管状況はまちまちで、多くは処分された恐れがある。一方、提訴と前後して研究者らによる資料の掘り起こしが進み、詳しい状況が次々と明らかになっている。

 神奈川県の審査会に提出された申請書には、「育児能力がない」といった偏見を根拠に審査した状況が記されていた。立命館大生存学研究センターの利光恵子客員研究員が見つけた。朝日新聞が情報公開請求などで入手した文書の中にも、遺伝の根拠が薄いと指摘されながら遺伝性疾患を理由に手術を認めた(鳥取県)、審査会を開かず手術の可否を決めた(福岡県)といった例があった。

 京都府は55年、衛生部長が各病院長に送った文書に、他府県の手術件数を示して申請を増やすよう促した。厚生省(当時)の精神衛生課長も都道府県に出した57年の文書で、手術の件数増を求めている。

 ■「国策協力の結果」 実施件数最多の北海道

 北海道庁は、仙台地裁での国家賠償訴訟や北海道への情報公開請求を受け、保管されている資料の精査に着手。手術の可否を審査する「優生保護審査会」から対象者に送られた通知書や、診断書、手術費用の支払いに関するものなど、6千点以上の資料を調べた。問題の重大性と被害者への対応の必要性などから公表を検討してきた。

 その結果、1962~73年度の状況が見えてきた。審査会に申請があったのは1210人分で、うち手術が「適当」と判断されたのが1129人に上った。

 内訳は、男性が233人、女性が896人。20代が428人、30代が464人で大半を占めたが、未成年者も男性で28人、女性で144人いた。最年少は男性が14歳、女性が11歳。最年長は46歳だった。審査結果が不明だったのが79人で、手術が「不適当」としたのは2人だけだった。

 道は今後も調査を続ける。今回示された資料はわずか12年度分に過ぎないためだ。3月中旬までにまとめることにしている。北海道子ども未来推進局の花岡祐志局長は、北海道での実施件数が全国最多となったことについて、「国策の一つとして、道としても関係機関などと協力を得ながら取り組んできた結果と考える」と述べた。また「最終的な調査結果を取りまとめ、その後については国や国会の動きを注視しながら、道としてどのようなことができるか思慮していこうと思う」と語った。

 (長谷川潤)

 ■政治救済視野に議論

 国は補償に消極的なだけでなく、全国の実態調査についても「損害賠償など救済措置が前提となる」(厚生労働省幹部)と、慎重な姿勢を崩していない。一方で、政治決着で補償する可能性もあるとみて、与党の動きを注視している。念頭にあるのはハンセン病だ。

 らい予防法(96年廃止)による隔離政策について、元患者らが違憲として国を提訴。2001年5月の熊本地裁判決で国が全面敗訴したことを受け、小泉純一郎首相(当時)が「政治判断」で控訴を断念。その後、元患者らに補償金を支給する議員立法が成立した。

 そんな中、政治側から救済につながる可能性がある動きが出始めた。3月にも発足する自民党を含む超党派の国会議員連盟には、会長に自民党の尾辻秀久・元厚労相が就く見通しだ。国に実態調査を求めるとともに関係者からヒアリングし、議員立法での救済も視野に議論していく方針だ。これとは別に、自民党内でプロジェクトチームをつくる案も検討されている。

 厚労省幹部は、「政治判断次第では、仙台地裁の訴訟の判決まで待たずに(補償に)動くこともありうる」としている。

 (西村圭史)

 ■<視点>国は調査と補償を

 優生保護法のもと、国は審査会を設けて手術の適否を決めるなどの行政事務を、都道府県に委ねていた。これまで、被害者や支援団体が資料の保存を要望した際、国は「都道府県に働きかける立場にない」と説明してきた。

 しかし、今回の北海道をはじめ、秋田県など都道府県が自ら、資料の内容を公表するケースが出始めている。立命館大大学院の松原洋子教授(生命倫理)は、こうした動きを評価したうえで「国は手術に予算も投じていた。国が都道府県に資料の保全を呼びかけ、実態調査をして補償につなげるべきだ」と話す。

 前提となるのは、まず、国として誤りと責任を認めることだ。法律によって人権が侵害されたのに、20年あまり、国は何もしてこなかった。国家賠償訴訟を起こした原告代理人の弁護士は、「国が非を認めないことへの万感の怒りを込めた」と話した。

 一方、手術を強制された事実を隠している被害者もいると思われる。被害者は心身を深く傷つけられている。実態を解明し補償をする中で、「二次被害やプライバシー侵害が起こらないよう、細心の注意を払うことを忘れてはならない」と松原さんは指摘する。(田中陽子)

     ◇

 <訂正して、おわびします>

 ▼2月20日付総合3面の強制不妊手術に関する記事で、都道府県別の手術件数一覧表が誤っていました。厚生労働省が2016年に市民団体に示した資料に基づき作成しましたが、確認不足のため、この資料が17年に修正されていたことに気づきませんでした。正しい表を掲載します。

 ■都道府県別の強制不妊手術の件数

北海道 2593

青森   206

岩手   284

宮城  1406

秋田    97

山形   445

福島   378

茨城    54

栃木   254

群馬    21

埼玉   405

千葉   174

東京  ★483

神奈川 ★420

新潟  ★267

富山  ★118

石川   ★88

福井    37

山梨   ★55

長野  ★387

岐阜  ★347

静岡  ★530

愛知  ★227

三重   110

滋賀   282

京都    95

大阪  ★610

兵庫  ★294

奈良   ★20

和歌山 ★103

鳥取    11

島根  ★123

岡山   845

広島  ★327

山口  ★181

徳島   391

香川   180

愛媛   155

高知   179

福岡   344

佐賀    86

長崎    51

熊本   204

大分   663

宮崎   229

鹿児島  178

沖縄     2

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 計 14939

 (★が訂正する数字。1949~96年の厚生省の統計などから作成。都道府県別が不明な52、53年分は含まない)

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