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 津波が引き起こした家族の分断。原子力とは何なのか。そして福島の中高生が伝えたいこと。2011年の東日本大震災から7年がたつ。今の東北の現実に、演劇がせまろうとしている。(江戸川夏樹、山根由起子)

 ■くじけず立ち上がる、福島の強さ 県内の中高生が演じる「タイムライン」

 舞台上に描かれた福島県の地図。横たわっていた中高生たちが1人、また1人と起き上がる。舞台「タイムライン」は福島の朝から始まる。

 県主催のミュージカル公演だ。劇作家の藤田貴大、県内の高校出身でNHKの朝ドラ「あまちゃん」の音楽を担当した大友良英らプロと、県内の中高生が共に作る今年で3回目のプロジェクト。

 朝起きて、登校し、国語、給食、掃除、音楽。一日の流れを歌と体で表現していく。「世の中には割り切れないことがあるのに、数学では、なんで割り切ろうとするんだろう」。藤田が書いた生徒のモノローグが色を添える。

 今年、参加しているのは34人。いわき市の高校1年小沢萌さん(16)は3年連続で出演している。震災の時は小学生。帰宅途中、踏みかけたマンホールが遠くに飛んでいった。「ちょっとの差で私は生きている」

 11年の東京電力福島第一原発事故は福島のイメージを一変させた。子どもたちが全員放射能におびえているかのように感じる県外の人もいまだにいる。小沢さんは「県外に避難した友だちが『被曝(ひばく)者来るな』と言われた。でも、暗いことがあったって笑顔は絶えない。福島の良いところは崩れても一からやろうってとこ」。

 開幕と閉幕で共通に使われるセリフが印象的だ。

 やっぱり朝は訪れた

 29~31日に東京・池袋の東京芸術劇場である公演は満席。024・521・7154(県文化振興課)。

 ■泣いていい、耐えなくていいんだ 仙台出身の作家が脚本「いぐねの庭」

 幽霊を脚本に描くのは「どうかと思っていた」という仙台出身の作家、堀江安夫。それでも、震災後に描いた舞台「いぐねの庭」には幽霊が登場する。

 11年夏、仙台市郊外の農家の一家は震災と向き合っていた。津波で子どもを失った母、両親を失った女子高生、子どもを残し亡くなった母の幽霊、ひた隠しにしていたそれぞれの思いが交錯していく。

 震災当時、埼玉に住んでいた堀江。自分の実家近くの海岸に多数の遺体が浮かんでいると知ったのはテレビの情報からだった。1カ月後に帰り、兄の車で被災地をまわった。「集落もない。木もない。怒りしか出てこない」。誰にもぶつけられない思いを整理するために本作を書いた。

 物語に登場する青年の前には、津波で命を失った母親が自然に現れる。「芝居の幽霊はなんでも出来る存在だから、出しちゃいけないかと。でも、自然と出していたよね」。自身の義姉から被災者の幽霊の話を聞き、とても作り話とは思えなかったという。

 舞台の最後、家族を失いながら、悲しみを見せなかった女子高生が泣くシーンがある。堀江の願いだ。「表情を失った子どもがいる。泣いてはいけないとがんばる人がいる。フィクションの中だけでいい。被災者は耐えなくていい」

 4月10~15日、東京・吉祥寺シアター。5千円など。03・3997・4341(東京芸術座)。

 ■科学者の倫理と交錯、練りに練ったセリフ 原子力学ぶ道選んだ学生らの視点「テン・コマンドメンツ」

 「原爆はパンドラの箱」「人のいない場所に落としても威力は伝わる」「放射線の影響がまだわからない」……。原子力を学ぶ大学院生たちに扮した俳優たちが、第2次世界大戦で原爆を製造したマンハッタン計画に関わった様々な研究者の立場で討議をする。稽古でも議論が白熱、セリフを練り直していく。

 瀬戸山美咲主宰の劇団「ミナモザ」は、東電福島第一原発事故以降に原子力を学ぶ道を選んだ大学院生たちの討論を劇にした「テン・コマンドメンツ」を、東京と広島で上演する。作、演出は瀬戸山。原子力の研究者や大学院生らに取材を重ねた。

 瀬戸山は11年5月、福島原発の半径20キロ圏内の警戒区域周辺を友人と車で訪ね、秋にドキュメンタリー演劇「ホットパーティクル」を上演。「立場を変えて今度は原子力を学ぶ人の視点で描きたいと思った」

 15年に日英共同プロジェクトの舞台「ヒロシマの孫たち」を上演。創作中、原爆開発をアインシュタインを通じて米政府に促したが、日本への原爆投下には反対した物理学者のレオ・シラードについて知った。シラードは自らへの諫(いさ)めとして「十戒(テン・コマンドメンツ)」を作った。そうした科学者の倫理を原子力を学ぶ学生の視点と交錯させる。「原発はよく分からないと専門家任せにしている風潮がある。劇で考えるきっかけを作りたい」

 21~31日、東京のこまばアゴラ劇場。4月5、6日に広島市で上演。3500円。080・9443・6115(ミナモザ)。

 <訂正して、おわびします>

 ▼8日付「舞台・音楽面」の「原子力学ぶ道選んだ学生らの視点『テン・コマンドメンツ』」の記事で、劇団「ミナモザ」の電話番号が間違っていました。正しくは「080・9443・6115」です。劇団の発表資料などに記載された電話番号が間違っていました。

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