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 前次官の前川喜平氏が名古屋市の中学校で講演したことに対し、文部科学省が市教委に趣旨や内容を問いただしていた。

 電子メールを使った質問は、2度にわたって約30項目あり、録音データの提供まで求めた。問い合わせの範囲を明らかに超え、異様というほかない。さらに口頭で、氏を招くのは「慎重な検討が必要だったのではないか」とも伝えたという。

 「慎重な検討」をすべきだったのは文科省の方だ。

 前川氏の講演は先月、「総合的な学習の時間」の一環で行われた。以前、教員の研究大会などで話を聞き、講師として適任と思った校長が頼んだ。当日、前川氏は夜間中学や不登校について自身の経験も交えて語り、「生涯学ぶ力をつけてほしい」と説いたという。

 この教科の目標は、変化の激しい社会に対応して自ら考える「生きる力」を育むことだ。講演は、まさに学習指導要領の趣旨に沿う中身といえる。

 ところが文科省の担当者は、前川氏が天下り問題に関与して次官を辞め、懲戒処分相当とされたことや、「出会い系バー利用」が報道されたことを指摘。「この事実をご認識されていたか」「道徳教育が行われる学校の場に、どのような判断で依頼したのか、具体的かつ詳細にご教示下さい」などとただした。

 メールの文面には、前川氏の人格を非難する意図がにじむ。文科省は「事実の確認」だと強調するが、そんな生やさしいものとは到底いえない。

 今回の講演は不適切なものだったと断じているに等しい。文科省から教育現場への圧力と受け取るのが自然だ。

 林芳正文科相は記者会見で、「確認のしかた、表現ぶりはもう少し慎重にやった方がよかった」と述べ、担当局長を注意したと説明した。認識の甘さに驚く。過剰な介入をもっと厳しく戒めるべきだ。

 前川氏は加計学園の獣医学部新設問題で、「行政がゆがめられた」と政権を批判した。講演者がその前川氏でなければ、文科省もここまで執拗(しつよう)な行動には出なかったのではないか。

 これは前川氏とこの中学だけの問題ではない。他の学校や教員を萎縮させる効果は大きい。講師に呼びたい人物や計画している催しが、政府の気に障るものでないか、常に神経をとがらせることになりかねない。

 教育の目的にかなう内容であれば、どんな人を招くかは学校の見識と裁量に委ねるべきだ。子どもたちが多彩な大人から学ぶ機会を奪ってはならない。

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