3周年、さらなる夢を共に クラウドファンディング「A-port」
朝日新聞社のクラウドファンディングサイト「A-port(エーポート)」は25日、スタートから3周年を迎えます。これまでアート制作や起業、社会貢献など約270件のプロジェクトを掲載してきました。今後も夢に挑戦する方々を後押ししていきます。
■ピアニストが考案「平らな鍵盤」 理想の音求め30年、完成まであと一歩
黒鍵も白鍵も全く同じ大きさ。平らに並ぶ、その鍵盤の上を、指がすべるように滑らかに走る。
「携帯電話がでこぼこしていたら、すぐに引っかかってしまうでしょう。ピアノも同じ」
自らが考案した不思議な鍵盤を響かせながら、菅野(すがの)邦彦さん(82)は語り始めた。この鍵盤の完成型「王様鍵盤」を作ろうとA―portでクラウドファンディングに挑戦している。
学習院大学在学時に演奏活動をスタート。1962年に来日したクラリネットの第一人者、トニー・スコットに「天才クニ」と認められ、その後は松本英彦カルテットの創設に加わった。海外でも多くのジャズ奏者と演奏し、国内外で認められたピアニストだ。
だが、菅野さん自身はピアノという楽器に満足できていなかった。なぜ、ピアノの鍵盤は凸凹なのか? 今の形状では、音のキーを変えるたびに指の運び方も変えなくてはならない。練習しすぎて腱鞘(けんしょう)炎になったり、速弾きでケガをしたりするピアニストも多い。
黒鍵と白鍵で重さや大きさも違っている。「押して一番いい音が出る『スイートスポット』が違ってくる」。均質な音を出すのが難しく、音をごまかして弾いているように菅野さんには感じられた。
「ピアノの原型となる鍵盤はマルコ・ポーロの時代(13~14世紀)にできてから変わっていない。未完成な楽器だ」
そこで思いついたのが、平らな鍵盤だった。スイートスポットは同じ位置に並び、音質は均一。キーを変えても指の運びは同じだ。
約30年前から試行錯誤を重ね、下田ビューホテル(静岡県下田市)に設置されている現在の鍵盤は4台目。その鍵盤で菅野さんに演奏してもらうと、音の透明感や転調の滑らかさなどに、通常のピアノと異なる特徴を感じた。
だが、この鍵盤はデザイナーに任せた部分が多かったため、丸みや重さが理想的な状態とは違うものになってしまっているのだという。これでは、菅野さんが求めるピアニッシモの繊細な音が出しにくい。自身や支援者の資金は底をついてしまったが、「王様鍵盤」の完成まで、あと一歩だと感じている。
「これまでの4台で誤りや間違いはやり尽くした。次こそは完全な鍵盤を作れると思う」
若いころから多数の録音を残してきた菅野さんだが、最近は「王様鍵盤ができてから」と録音を控えている。完成したときには、東京・六本木のライブでお披露目し、久々のCD制作にも取り組むつもりだ。(伊勢剛)
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A―portで演奏の動画が視聴できます。
《目標額》 400万円
《特典例》 1万円で菅野さんが王様鍵盤を弾く「キーストンクラブ東京」のミュージックチャージ無料+サイン入りCD(2枚)など
■原一男監督の45年間を本に
ドキュメンタリー映画の鬼才、原一男監督(72)の「全仕事」に迫る本をキネマ旬報社が制作し、その費用への支援を募っている。タイトルは「タブーこそを撃て! 原一男と疾走する映画(ムーヴィー)たち」。庵野秀明氏、辺見庸氏らとの対談などで原監督の45年間の映画人生を追っている。
原監督は「ドキュメンタリーの作り手が単独の一冊を作ってもらえるとは、大変ありがたい」と話す。
天皇の戦争責任に迫るアナーキストを描く「ゆきゆきて、神軍」(1987年)を始め、「スーパーヒーロー」を撮り続けてきた。「20代で映画を撮り始めたとき、『生活者を撮らない、表現者を撮る』と自分に言い聞かせていた」
だが、最新作「ニッポン国VS泉南石綿村」で描いたのは、普通の生活者。撮影に8年かかったのは「面白い映画になると思えないまま、裁判が終わってしまったから」だという。
昨年の山形国際映画祭で観客から高評価を得た。「『ニッポン国』は『神軍』の逆のイメージもあるが、人々の固有の人生を凝縮して撮るという手法は、脈々と受け継がれている。この本は、今までの流れを踏まえて作品を考えてもらうヒントになると思う」
クラウドファンディングでは、独自コンテンツを16ページ追加した特別編集版も制作する。担当編集者は「映画とあわせて読んでいただくことで、原監督の全貌(ぜんぼう)が分かる」と話している。
《目標額》 100万円
《特典例》 1万円で「タブーこそを撃て!」の特別編集版(直筆サイン入り)など
■がん患者や家族に交流の場
生涯のうちに2人に1人ががんになり、5年生存率が6割を超える時代。「がん=死」とはいえない。しかし、告知されると孤独に陥り、3人に1人が離職するという調査もある。
日本対がん協会は昨年6月、がん経験者(サバイバー)や家族を支える「がんサバイバー・クラブ」を立ち上げた。事業の一環として、患者や家族らがつながれるオンラインコミュニティー「がんサバイバーnet(仮称)」を計画している。今回のクラウドファンディングでは、システムの開発費用などを募る。
がんサバイバーnetの登録者は、キーワード検索などで他の登録者とつながることができる。治療や生活に関する情報交換、悩みの相談もできる。日記やエッセーをサイト内で公開できるほか、患者会などのグループもつくれる。
がんサバイバーnet実現も含めた患者支援を訴えるため、元国立がんセンター総長の垣添忠生・同協会会長(76)は7月までの予定で全国縦断ウォークを続けている。同協会は「日常生活では出会えない患者同士の交流が芽生え、孤独の解消や有用な情報の入手に役立つことを目指す」という。(中村智志)
《目標額》 300万円
《特典例》 1万円でサバイバークラブのロゴ入りトートバッグと垣添会長著「巡礼日記」のサイン本など