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 自民党の憲法改正推進本部が、大規模災害に備えるための「緊急事態条項」を新たに設ける改憲条文案を固めた。

 なぜ災害対応に改憲が必要なのか。疑問がぬぐえない。

 一時的にせよ内閣に権限を集め、国民の権利を制限する。憲法に縛られる側が、その縛りを解くよう求めることの意味は慎重に考える必要がある。

 内容は、内閣の権限強化と議員任期の延長の二本柱だ。

 大災害が起きた場合、内閣の判断で、法律と同じ効力を持つ政令を定められるようにする。国会議員の任期を、衆参各院の出席議員の3分の2以上の賛成で延長できる特例を設ける。

 ただ、改憲しなくても、緊急時の対応はすでに災害対策基本法などに定められている。

 阪神大震災や東日本大震災を経て災害対応の法整備は進み、災対法も改正が重ねられた。

 確かに、災害対応に万全はない。法に不備がないかは平時から国レベルで点検すべきだ。

 同時に、住民保護の前線に立つ自治体がいかに被害を抑え、行政機能を維持するか、法を理解し、訓練を重ねることが重要だ。東日本大震災の被災自治体の多くは、政府ではなく自治体主導の災害対応が重要だと考えているとの調査結果もある。

 しかし、自民党の議論は場当たり的だ。

 2012年にまとめた党改憲草案は、緊急事態の対象を大災害に加え、「武力攻撃、内乱などによる社会秩序の混乱」と幅広く規定していた。これが「乱用の危険がある」と批判されると、内閣の権限強化を省いて議員任期の延長特例に絞る案が浮上。今度は党内の反発を浴び、災害対応に限って内閣の権限強化を復活させた。

 うかがえるのは、災害対応を名目にした「改憲ありき」の発想である。

 国会議員の任期延長特例も必要とは言えない。憲法54条には衆院解散時の参院の緊急集会の定めがある。仮に災害時に衆院が解散していても、参院による立法機能は維持できる。

 何よりも優先すべきは、国民が選挙権を最大限に行使できるよう備えることである。

 被災者が避難先の自治体で投票できる制度づくりなど、災害時でも可能な限り選挙が行えるよう公選法改正を求める日弁連などの動きもある。

 災害対応のために改憲は要らない。

 憲法を改めれば安全・安心につながるかのような議論は、災害への備えをおろそかにしかねない危うさをはらむ。

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