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 旺盛な制作を続ける前衛芸術家の全体像を紹介する「草間彌生 ALL ABOUT MY LOVE 私の愛のすべて」展が、長野県松本市の松本市美術館で開かれている。約180点が並ぶ生地・松本ならではの大規模展。現在89歳の国際的芸術家の世界観を全身で堪能できる。

 ■埋め尽くす、多彩な自画像 水玉・網目・シュールレアリスム…

 全館が草間ワールド。松本市美術館は今、そんな状態になっている。展示室はもちろん、ロビーや庭にも作品が置かれ、建物外壁にもトレードマークの水玉模様が付く。さらに、トイレの鏡にも水玉が。ここまでできるのは、生地の美術館だからこそだろう。

 展示室へと向かう階段の傍らではまず、自画像ともいえる「ヤヨイちゃん」や犬の「トコトン」のバルーン作品が迎えてくれる。

 シャンデリアや膨大な数の水玉模様の立体が鏡の作用で反復される部屋など、展示冒頭は草間の「無限世界」を体感できる。

 渋田見(しぶたみ)彰・同館学芸員は「草間作品は常識だけでは捉えにくい面がある。だから、思わず声を上げてしまうような表現をまず体感してもらった方が理解が深まると考えた」と話す。

 この後、草間の歩みをたどる展示が始まる。最初に出あうのは、5歳ごろに描いたとみられる一枚だ。山並みや建物、人物が見て取れるが、全体を粒々が覆う。これは水玉模様の先駆けなのか、雪なのか。

 若き日に松本や、美術を学んでいた京都で描いたシュールレアリスム的な作品群を経て、1957年から16年過ごした米国時代の代表的な作風が登場する。白い網目模様の絵画「ネット・ペインティング」や、無数の突起がついた立体などだ。草間が悩み続けた幻覚に基づいた作品だ。

 帰国後の作品としては、横幅10メートルを超え、現存最大の絵画作品とされる「ピンク・ドッツ」や世界初公開の大作ネット・ペインティングが紹介されている。

 そして、フロアを変えた展示室の壁を埋め尽くすのが、2009年から描き続ける大作の連作絵画「わが永遠の魂」からの68点。世界初公開作もあれば、東京・歌舞伎座の祝幕に使われた「落魄(らくはく)の墳墓、そして私の心の貧しさだけが全身を支配しているのだ」など国内初公開作も多い。

 水玉や網目から、人の顔にアメーバのような形態、シュールレアリスム的な要素まで、従来の表現を鮮やかな色彩で統合しつつ、新たな表現を生んでいる。草間が「現在進行形の作家であることの証明」(渋田見学芸員)ともいえる。

 今回、「ヤヨイちゃん」のほか、「自画像」と題された作品が7点も出ている。大半が顔には見えず、陶芸作品もある。「自己」「私」「我が」といった文字の入る題名も多い。

 考えてみれば、草間の作品はほとんどが、その内面や脳内の風景を描いているといっていい。かつて本人は「自分の人生を芸術の力で変身させた」と語ったことがある。ある意味、すべての作品が自画像なのだ。

 私たちは、全館自画像化した松本市美術館内で、草間の類いまれな表現と向き合うことになる。そしてその瞬間にもおそらく、草間は東京のスタジオで新作を描き続けているのだ。(編集委員・大西若人)

 ◆松本市美術館で7月22日まで

 ■7月22日[日]まで、松本市中央4丁目の松本市美術館(0263・39・7400)。開館時間は午前9時~午後5時(土曜日は午後7時まで)。月曜休館(4月30日、5月7日、7月16日は開館)

 ■一般1200円、大学生・高校生800円

 主催 草間彌生展実行委員会(朝日新聞社など)、松本市美術館

 協力 株式会社草間彌生

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