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 中東最大の1億に迫る人口を持つエジプトは地域の大国だ。7年前の政変後は陰りが見えるが、影響力はいまだ大きい。

 その安定は、内戦や覇権争いで混乱が続く地域情勢のさらなる悪化の歯止めにはなろう。

 しかし、国民の批判を力ずくで抑えてつくりだす安定は、いかにも危うい。3月の大統領選で再選されたシーシ大統領は、有権者の6割が棄権した重みを踏まえ、国民の不安と不満に正面から向き合うべきだ。

 選挙前に有力候補の拘束や辞退が続き、対立候補はシーシ氏を支持する小政党の党首1人だけ。事実上の信任投票で、シーシ氏は有効投票の97%を得た。だが、投票率は約41%にとどまり、前回2014年の約47%に及ばなかったのである。

 エジプトでは、長く軍出身の大統領が権威主義的な体制を続けてきた。11年の民主革命で国民はいったん強権支配から解放されたが、わずか2年で再び軍が政治の前面に戻ってきた。反動のためか、シーシ政権の弾圧はそれまでに増して激しい。

 革命の立役者だった青年組織は活動禁止に。革命後の政権を一時担った穏健イスラム主義組織ムスリム同胞団はテロ組織に指定され、壊滅状態だ。

 デモや、報道機関、NGOの活動は制限された。400以上のウェブサイトが遮断され、逮捕も相次ぐ。国連人権高等弁務官は「市民社会を組織的に沈黙させている」と指摘する。

 革命の余波で政治、経済が混乱を極めた4年前は、その収拾が第一との民意もあったろう。

 とはいえ、自由を犠牲にした安定には限界がある。水面下で募る不満は、過激な思想に引き寄せられやすい。シナイ半島などで続くテロに対処するうえでも、締め付けで社会の分断を深めるのは得策ではあるまい。

 経済は最悪の状態を脱した。成長率は4%台に回復し、外貨不足も解消、外国人観光客も戻りつつある。一方、物価上昇と補助金削減で、国民生活は置き去りのままだ。失業率は高止まりし、国民の4人に1人が貧困ライン以下という統計もある。

 背景には軍主導の経済がある。景気てこ入れのため次々と打ち出した大型公共事業の多くは軍関連企業が受注している。これでは民間部門が育たず、雇用も生み出さない。長期的な発展にはつながらないことを認識する必要がある。

 中東に石油を頼る日本は、この国の行方に無関心ではいられない。エジプト国民の暮らしを注意深く見極め、民生の向上につながる支援を続けたい。

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