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 他人の労苦の成果を横からかすめ取るような行いは許しがたい。だからといって、こんなやり方で対抗しようとすれば、将来に大きな禍根を残す。

 政府がきのう、インターネット上で漫画や雑誌などを無料で読める「海賊版サイト」に対する緊急対策を決めた。

 人々がこうしたサイトにアクセスするのを、ネット接続事業者(プロバイダー)が遮断しても違法にはならない、との見解を打ち出したのだ。さらに三つのサイトを明示し、「当面の措置として遮断するのが適当」と踏みこんだ。「事業者の自主的な取り組み」としつつ、事実上の要請と言っていい。

 サーバーが海外にあるなどの理由で、海賊版サイトには有効な手を打てないのが現実だ。被害額は数千億円にのぼるとの推計もあり、権利を日々侵される漫画家、出版社のいら立ちや悩みは、十分理解できる。

 だが、プロバイダーが接続を遮断するためには、顧客のアクセス先を逐一確認する必要がある。憲法が保障する「通信の秘密」の侵害になりかねない、まさに劇薬だ。

 日本では、幼い子供の心身に回復できない傷を残す児童ポルノのサイトに限り、11年から遮断対象としている。刑法の「緊急避難」の考えに基づく措置で、プロバイダー、関係省庁、憲法学者らが2年にわたって議論し、ルールを整備した。

 しかし今回の対策は、そうした過程抜きに唐突に決まった。政府は海賊版サイトも緊急避難の理屈で説明できるというが、法律家の間では否定的な声が多い。「通信を無断でチェックしたのは問題だ」と客から抗議された場合などのリスクを、「自主的な取り組み」をしたプロバイダーに押しつけるものでもあり、あまりに無責任だ。

 プロバイダーでつくる業界団体は「影響の少ない他の手段も考えられる」などとして、政府の対策を批判する声明を出した。業者の協力がなければ実効性はない。「緊急避難」を理由にすれば規制の対象を恣意(しい)的に広げられるという、あしき前例を生むだけになる。

 政府も「乱用は避けなければならない」と言ってはいる。だが児童ポルノの遮断も、その前提で行われた。当時の約束を軽々と破る姿を目の当たりにして、懸念はぬぐえない。

 積み重ねてきた議論を軽視し、丁寧な説明を嫌い、自らの考えを押し通す。そんな政権の姿勢が、今回の対応にもあらわれている。出直して、不信と混乱の解消に努めるべきだ。

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