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 「常識をくつがえし、産業や社会に大きな変革をもたらす」

 こんなうたい文句を掲げ、安倍政権のもと4年前に鳴り物入りで始まった研究開発制度で、根拠が不十分なまま成果を強調したと受け取られてもしかたがない事例が相次いでいる。

 カカオ成分の多いチョコレートを食べると脳が若返る可能性がある――。内閣府と大手製菓会社は昨年初めにこう発表したが、30人に4週間チョコレートを食べてもらった結果をまとめたもので、食べなかった人との比較をしていなかった。

 まだ論文にもなっておらず、予備的な実験だったという。科学的な裏付けが十分ではないとの声があがり、検証した有識者会議が「『脳の若返り』という言葉が独り歩きしてしまい、発表には慎重さが必要だった」と指摘したのは当然だろう。

 昨年秋には、新たに開発された計算機を、プロジェクトの責任者を務める研究者が「量子コンピューター」と呼んだことに異論が出た。現在のスーパーコンピューターを超える高速計算を可能にする量子コンピューターは、まだその定義がはっきりしていない。「拙速に量子コンピューターを語るべきではない」との意見も出て、当面、そう呼ばないことになった。

 この研究開発制度には総額550億円の基金が設けられ、16のプログラムが進む。内閣府が所管し、首相を議長とする政府の総合科学技術・イノベーション会議が、研究テーマの設定やプロジェクト責任者の最終的な決定に当たる。

 国の産業競争力を高め、国民生活に貢献するという視点が明確に記され、責任者に巨額の予算と大きな権限が与えられているのが特徴だ。

 リスクを伴う研究開発に産学官が協力して取り組む仕掛けは必要だ。しかし、実現が見通せない挑戦的な研究課題だからこそ、成果の発表には正確さと慎重さが欠かせない。説明に行き過ぎた表現や誇張があれば、科学への信頼を損ねることになる。公的資金を投じた研究が特定の商品の宣伝につながりかねない危うさへの目配りもいる。

 客観的な立場からチェックするのは、資金の出し手でもある政府の役割である。ところがその政府自身が、経済成長につながる成果を求めるあまり、前のめりになっていないか。

 社会的な意義や成果を強調したいという誘惑を排し、根拠に基づいた冷静な情報発信に徹する。そうした態度が科学の基本であることを、関係者は肝に銘じてほしい。

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