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 受刑者の逃走で多くの人が不安を感じた。再発防止策の検討が不可欠だ。ただ、受刑者の自立と円滑な社会復帰を促す試みの積み重ねを大切にしたい。

 「塀のない刑務所」として知られる松山刑務所大井造船作業場(愛媛県今治市)から4月上旬、20代の男が逃げ出した事件は、男が広島市内で逮捕されるまで20日余りを要した。その間、今治市としまなみ海道でつながる広島県尾道市の向島では厳しい検問が続き、スポーツ大会が中止されるなど、住民の生活に大きな影響が出た。

 警察の取り調べに対し、男は逃げた理由として刑務官や他の受刑者との人間関係をあげているという。捜査結果を踏まえつつ、刑務所としてもまずは動機を解明しなければならない。

 この作業場は造船会社の一角にある。受刑者は敷地内の寮に寝泊まりしつつ、一般従業員とともに働いて溶接などの技術を身につける。外塀も、寮の窓に鉄格子もない「開放的施設」で、1961年に開設された。

 一般社会に近い生活を送り、職業訓練をしつつ復帰に備える。出所後の生計にめどをつけるだけでなく、逃げられるのに逃げないよう自らを律し、自立を支える効果も期待する。

 凶悪犯は対象外で模範囚が選ばれるが、この作業場を出た人が再び刑事施設に入る「再入率」は1割程度と全国平均の4割を大きく下回る。更生へ一定の効果があるといえるだろう。

 この作業場で起きた逃走は17件目で、今回は02年以来だった。敷地内に監視の死角がないか、対象者の選抜基準や心情の把握、逃走直後の対応などに改善すべき点はないか、しっかり検証してほしい。

 法務省は再発防止策を練る委員会を立ち上げた。監視カメラと顔認証システムを組み合わせた仕組みのほか、受刑者本人の同意が得られればGPS(全地球測位システム)の端末を装着させる案も出ているという。

 GPSを使えば逃走者の追跡が容易になり、抑止効果もあるだろう。ただ、受刑者の自尊心を傷つけ、更生に逆効果にもなりかねない。施設の意義そのものを損ねてしまう。

 作業場の地元では、開放的な施設運営を続けるよう求める声が出ている。受刑者が清掃活動を続けるなど、地域社会に受け入れられてきた証左だろう。

 各地の刑務所には、弁護士や有識者、住民らからなる第三者委員会が置かれている。松山刑務所の委員会で、地元の意向を尊重しつつ、施設のあり方を多角的に議論してほしい。

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