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 世界に離散し、ホロコースト(大虐殺)を経験したユダヤ人が中東パレスチナにイスラエルを建国して70年。国際社会から非難されながら占領地での入植を続け、米国大使館のエルサレム移転を歓迎する。パレスチナとの共生を目指す動きは広がらず、和平ははるかに遠のいている。(エルサレム=渡辺丘、杉崎慎弥)

 ■米大使館移転、背景に中間選挙

 「(イスラエルの)明かりを消そうとする者がいるが、それは起きない。我々はいつも闇に打ち勝つ」

 4月18日夜、エルサレムで開かれたイスラエル建国70年の記念式典。燭台(しょくだい)に火がともされ、ネタニヤフ首相が訴えた。エルサレムをイスラエルの首都と宣言したトランプ米大統領が、5月14日に米大使館を商都テルアビブからエルサレムに移すことにも触れて、「歴史的決定」とたたえた。

 イスラエルはエルサレム全域を「不可分の首都」と主張するが、パレスチナの人々は東エルサレムを首都とする国造りを目指す。各国は「2国家共存」に配慮して、商都テルアビブに大使館を置いている。

 トランプ氏が首都宣言をしたのは昨年12月。今年2月には大使館の5月移転を発表した。この背景には、11月の中間選挙でキリスト教福音派の支持を確実にしたい思惑がある。

 キリスト教福音派は、米人口の約4分の1を占めるとされる米国最大の宗教勢力だ。イスラエルは神がユダヤ人に与えたと考え、ユダヤ人を祝福すれば神の祝福を得られると信じ、大使館移転を歓迎している。

 式典翌日、ネタニヤフ氏は「最初にエルサレムに大使館を移転した10カ国を優遇する」と呼びかけた。中米グアテマラと南米パラグアイが5月中に大使館を移転する予定で中米ホンジュラスと東欧ルーマニアが移転を検討中だ。いずれも経済や安全保障で米国の強い影響下にある国だ。日本を含む他の多くの国々は、「移転しない」と明言している。

 ■入植地、止まらぬ暴力連鎖

 4月19日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区にあるユダヤ人入植地シロ。イスラエル内外からのツアー客を乗せた大型バスが次々に到着した。

 「聖書にはシロに関する記述が数多くあります。ここは3千年の歴史があるユダヤ人の最古の都です」

 ガイドのユダヤ人、モリヤ・シャピラさん(41)が案内していた。イスラエル政府は2012年、シロを国家遺産に指定。今では年間約8万人が訪れる。

 シャピラさんは1978年、米国から家族とここへ入植。当時、ユダヤ人は9家族しかいなかったが、今では2千人以上が暮らす。父親のイラ・ラパポートさん(73)は「ユダヤ人の首都を再建する宗教的使命に燃えていた」と語る。

 ユダヤ人の入植が始まると、パレスチナ人住民との間で衝突が始まり、暴力の連鎖が止まらなくなった。ラパポートさんは80年、入植に反対するパレスチナ人指導者の車を爆破し、大けがをさせた。その後、有罪判決を受けて服役した。

 占領地への入植は国際法違反だ。パレスチナ、国連、そして多くの国々がイスラエルに凍結を繰り返し求めてきた。だが、イスラエル政府は聞く耳を持たない。67年の第3次中東戦争でヨルダン川西岸地区や東エルサレムを占領して以来、拡大させ続けている。

 イスラエル政府などによると、入植者は現在、西岸地区で約42万人、東エルサレムで約22万人。ネタニヤフ政権では西岸地区の併合を求める声も出ている。

 ■和解の声、広がらず

 4月17日夜、テルアビブ郊外の公園。イスラエルとパレスチナの和解を求める集会が開かれ、約1万人が集った。パレスチナ人とイスラエル人が交互に登壇し、共生を訴えた。

 パレスチナ難民の女性教師マハ・サラさんは97年、ヨルダン川西岸地区でイスラエルへの抗議デモに参加していた弟をイスラエル兵に銃撃されて殺されたが、「私たちは敵同士ではない」と語った。ユダヤ人作家のデービッド・グロスマンさん(64)は「70年後、ユダヤ人とパレスチナ人がそれぞれの国歌を歌い、共通の一節を歌う。そんな希望を持とう」と呼びかけた。

 エルサレム近郊にあるネベ・シャローム(ヘブライ語で「平和のオアシス」の意味)と呼ばれる村では、ユダヤ人とイスラエル国籍を持つパレスチナ人が34家族ずつ暮らし、共生を目指す取り組みを続けている。

 学校ではユダヤ人とパレスチナ人が共に学び、ヘブライ語とアラビア語の両方が使われる。だが3年前、助成金を得るために学校はイスラエル教育省の認可を受け、イスラエル建国でパレスチナ人約70万人が難民になったことを授業で教えられなくなった。ユダヤ人は兵役を義務づけられ、パレスチナ人は対象外となっていることも相まって、両者の間に「心の壁」を生んでいる。

 ネタニヤフ氏の連立政権には極右政党も入り、イスラエル社会では右傾化が進む。パレスチナとの和解や共生を求める声が広がる兆しは見られない。

 <訂正して、おわびします>

 ▼10日付国際面「遠のく和平 イスラエル パレスチナ 70年(下)」の記事で、「米大使館を商都テルアビブからイスラエルに移す」とあるのは、「米大使館を商都テルアビブからエルサレムに移す」の誤りでした。確認が不十分でした。

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