[PR]

 公式上映後、10分近くに及んだスタンディングオベーションの熱気は、本物だった。

 カンヌ国際映画祭で、是枝裕和監督の「万引き家族」が最高賞のパルムドールを受賞した。これまでも審査員賞が贈られるなど「カンヌの常連」ではあったが、世界の実力派監督たちを制しての快挙となった。

 高層マンションの谷間の下町の古ぼけた家に、祖母の年金、わずかな収入、そして万引きで食いつなぐ5人家族が住む。体中に傷のある幼い女の子を引き取ったことから、家族の秘密が明らかになる。

 家族の小さな日常の、小さなほころびを通じて、人々の姿をていねいに描く。こうした手法は、是枝作品の多くに貫かれてきたものだ。

 登場人物や、そこに横たわる問題の暗部だけを見て断罪しない。背中合わせにある明るさ、たくましさ、豊かな時間も肯定する。わかりやすい「敵」をつくって、観客に感情移入させたり思考停止させたりすることをしない。結論を急がず、見る人にゆだねる。

 そんな作風で、人と人とを結びつけ、互いの信頼を支えるものは何かという重い問いを、観客に突きつけてきた。

 受賞作もそうした二重性や奥行きをたたえたものだが、監督は「作っている感情の核にあるものが喜怒哀楽の何かと言われると、今回は『怒』だったんだと思います」と語っている。

 声の大きな人たちが幅をきかす一方で、普通に生活する市井の人の思いは、社会のなかに埋もれてゆく。そんなこの国の「いま」に対する違和感を、作品を通じて感じ取る人は少なくないのではないか。

 審査員長を務めた女優のケイト・ブランシェットさんは閉会式で、人種差別、貧困、不法移民、政治対立などさまざまな矛盾を取りあげた作品が会した今回の映画祭は、社会から置き去りにされた「見えざる人々」に声を与えたと総括した。

 記者会見した是枝監督がこれに応じる形で、引き続き「見えざる人々」を可視化していく決意を示したのは印象的だった。

 近年、日本映画は観客動員で回復傾向にある。一方で、ヒット作の陰で作品の多様性が失われているとの懸念もある。

 テレビドキュメンタリーの制作の出身で、映画には「公共性こそが大切だ」とくり返し語ってきた是枝監督が、パルムドールを手にした。社会性と芸術性の両立という困難な挑戦を、世界が認めたことの意義をしっかり受け止めたい。

こんなニュースも