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 経団連の新しい会長に、中西宏明・日立製作所会長が就いた。デジタル化を進めた「超スマート社会」の実現を目指し、経済成長に力を入れるという。

 新しい技術で豊かな社会をつくるという方向性は、同意できる。ただ、そのためにまず取り組んで欲しいことがある。成長を支える働き手の声に、十分耳を傾ける努力だ。

 内外で景気回復が続く中、日本企業は空前の利益を上げている。かつて企業が訴えていた円高や高い法人税率などの「六重苦」はだいたい解消された、と中西氏自身も述べている。

 では、働く者への還元は十分なされているのか。

 榊原定征前会長は、先月末の経済財政諮問会議で、経団連首脳企業の76%で、年収ベースで3%以上の賃上げを実現したと報告した。安倍政権が望む「3%賃上げ」の宿題ができた、と言わんばかりの発言だ。

 だが、労働組合側が要求していたのは、月例賃金で2%のベアを含む4%の賃上げだ。現在までの集計では、その水準には程遠く、脱デフレには力不足なのが実情だ。

 中西氏は政府が数字を出して賃上げを求めることに違和感を示してきた。政府ではなく働き手の方を向くというのなら歓迎だ。だが、賃上げを渋るのが目的なら、落胆せざるをえない。働きに報い、人材への投資を行わなければ、企業も日本経済も成長を持続できないだろう。

 経済界は生産性向上を掲げる一方で、裁量労働や高度プロフェッショナル制度など、長時間労働に結びつきかねない仕組みの拡充を望んできた。多様な働き方という名目のもとで、企業にとっての「使い勝手」を優先する姿勢になっていては、働き手の信頼は得られない。

 政治との距離も問われる。経団連は加盟社に政治献金を呼びかけ、会長が経済財政諮問会議の有識者議員を務めるなど、政策決定にも深く関与する。

 中西氏は「政府・与党に忌憚(きたん)なくもの申す『提案型』の会長として職責を果たしたい」という。経済の現場の知見を示し、政権の問題点を指摘するのは一つの役割だ。だが、企業は補助金や税の減免など政策の恩恵を受ける立場でもある。単に経営者側の利益を押し通す姿勢に陥れば、「カネで政策を買っている」と見られかねない。

 中西氏の出身母体である日立は、英国で原発事業を進めるにあたって、日英両政府の支援を望んでいる。個別企業の利害と経団連会長の立場を混同しないよう注意すべきだ。

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