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 原っぱや広場でのキャッチボールは淡くも楽しい記憶です。球がそれてもグラブを伸ばし、はじけば拾いに走って投げ返す。ほっこり温かくなれる。そんな反復を、朝日新聞は読者とできているのでしょうか。

 報道内容に対するご意見を定期的にお寄せいただく紙面モニター制度は2006年以来12年続いています。記事審査室が読者から募り、任期は半年。150人ずつの2グループに分かれて、交互に2週間に1度ずつ率直なご批判ご講評をお送りいただき、その概要版が編集部門とパブリックエディター(PE)に届きます。これ以外に同モニター経験者の中から、記事が出た直後にご意見をいただくクイックモニター(約80人)もお願いしており、両モニターからの声の数々が、その後の報道の改善やPEによる提言のもととなる、大切な「触角」です。

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 4月17日付の当コラムで湯浅誠PE(社会活動家)が裁量労働制をめぐる報道に関し、朝日新聞のスローガン「ともに考え、ともにつくる」は、「自己開示しない人たちとは難しい」とし、裁量労働制を採り入れている当事者として朝日の事情や考えを示すことが読者との信頼構築に不可欠と訴え、「どのようにお考えでしょうか」と読者に問いました。紙面モニターの一つのグループに尋ねると、回答した124人の3分の2の81人が賛意を示し、うち11人は財務事務次官によるテレビ朝日記者へのセクシュアルハラスメントを受け、ひとごとではない朝日新聞取材陣の実情を知りたいと求めました。

 「取材で受けるセクハラについて女性記者の率直な意見が聴きたい」(神奈川・女性・40代)

 「次官辞任の報道が出て、取材記者の仕事のことを知りたいと思った。この時期は一段と記者の自己開示を望む」(鳥取・女性・40代)

 翌週24日のPE会議ではこれらの意見を意識して、自社取材陣のセクハラ被害やそれに対する姿勢も記事化すべきだ、との声が続きました。

 「朝日の紙面はちょっと鈍く、もどかしい。新聞社としてこの問題をどう受け止めているか訴えるよい機会」「読者はずっと放っておかれている。新聞としての、人としての体温が感じられぬままでよいのか」(河野通和PE=ほぼ日の学校長)

 「記事を書く人の姿が垣間見えると親近感や信頼度が増すと感じた」(小島慶子PE=エッセイスト)

 「朝日の記者の話が出てこないと、かえってこの問題に黙っているようにみえる」(湯浅PE)

 同席した中村史郎ゼネラルエディター(GE)は「同じメディア当事者としての発信は検討している」と応じました。

 それが具体化されたのが、朝日新聞の女性記者が自ら提案したセクハラ被害の座談会や、企業としてセクハラ対策にどう取り組んでいるかをまとめた5月3日付朝刊「メディアタイムズ セクハラ問題 報道の現場で」。文中には「『朝日新聞はどうなの?』という読者の声が編集局に届き、PEからも『悩んでいる姿を伝えてほしい』と指摘されました」とありました。この記事を、多くのモニターが高く評価しました。

 「朝日新聞の女性記者の取材環境の現状を知ることができた貴重な記事。財務事務次官のセクハラ問題の発覚後、ずっと気になっていた。遅きに失したとはいえ、評価したい」(千葉・男性・50代)

 「現場の記者の本音を報じて時事性があり、多くの読者の関心を引いたのでは」(東京・女性・30代)

 「湯浅PEコラムの指摘も踏まえ、被害の実態を身をもって知る女性記者の体験をまとめられたのでは。PEの意見を編集部門も尊重されたのでは」(東京・女性・50代)

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 5月8日のPE会議でも、小島PEは「記事が出たのは良かった。このセクハラ問題に関しては、読者から様々なご感想が多数あった」、湯浅PEは「朝日の記者はどうなんだ、という問いが話題になることは今後も増えるはず」と語りました。

 そのとおり、働き方問題でもセクハラ問題でも「では自社の事情は?」という読者からの問いは続きます。できるだけこたえた方が良いというのがPE側の意見ですが、先の「メディアタイムズ」の記事についても「内容や切り口をめぐって、社内では多くの意見、議論がありました。自分たちの姿の伝え方はいつも悩ましい」と中村GEは言います。

 「新聞記者は黒衣」と思ってきた記者35年目の筆者も「当事者としても発信せよ」というご要望に少々戸惑う世代です。でも、読者の求めるリアリティーと、「ともにつくる」姿勢を重視すべき時代とも感じます。

 4年目を迎えたPE制度はモニターのご意見、お客様オフィスに届く声などをふまえて動いています。2017年度は会議を31回開き、発足以来の3年で107回を数えました。18年度は、この制度が読者と「ともにつくる」をより実感でき、時に捕りづらい球も拾って、互いの「体温」を感じあえるキャッチボールの「広場」となれるよう努めます。

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 まつむら・しげお 1959年生まれ、84年朝日新聞社入社。be編集部・経済部デスク、さいたま総局長、西部本社編集局長を経て2016年から現職。

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