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 今月初めに、パブリックエディター(PE)として「ニュースオンブズマン協会(ONO)」の総会に出席してきました。世界の新聞社や放送局で報道内容をチェックして意見を述べるオンブズパーソン、PEたちが集まる、年に1度の会議です。今年の開催地・オランダのヒルフェルスムに20カ国から34人が集まりました。

 今年のテーマは「信頼構築」。メディア不信が広まる中で、読者や視聴者の信頼を取り戻すためには何が必要かが議論されました。

 インターネットを使えば誰でも発信者になれる今、情報は玉石混交です。新聞記事よりもSNSで見つけた筆者不明のブログの方に説得力があると感じる人も。誤った情報は瞬く間に世界中に広まってしまいます。一体、信頼できる情報はどうやって見分ければいいのでしょう。

 基調講演では、米国のジャーナリストでサンタクララ大学応用倫理学センターのサリー・ラーマン上席ディレクターが自ら進める「ザ・トラスト・プロジェクト」を紹介しました。この取り組みは、オンライン記事の透明性の基準を作り、報道への信頼を取り戻すのが目的です。独自の8指標に照らして記事を評価し、信頼できると判断した記事には、TRUST(信頼)の「T」マークをつける。いわば報道の品質保証マークのようなものです。

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 仕組みを作るにあたり、米紙ワシントン・ポストや英誌エコノミストなど、75を超える国際的な報道機関などが協力し、グーグルやフェイスブック、ツイッターといったSNSプラットフォームとも技術面で連携しています。

 八つの指標は、同プロジェクトが欧米で行った市民へのインタビュー調査から、「読者が『この記事は信用できる』と判断するためには、以下のような情報が必要」と導き出されました。

 (1)報道機関の倫理基準 どんな使命感があるか。倫理的な取り組み、意見の多様性、正確さ、記事の訂正などの基準は? 出資元はどこか。

 (2)執筆者の情報 経歴や連絡先の開示。どんな専門性を持っている記者なのか、過去にどのような記事を出しているか。

 (3)記事の種類 ストレートニュースなのか、論評や分析、または広告記事なのか。

 (4)情報源 調査報道で示された事実や主張はどのような情報に基づいているのか。

 (5)手段 どのように記事が作られたのか。調査報道を行った記者はなぜその問題を追及しようと思ったのか。取材過程の情報も。

 (6)現場で取材したか? 地域の状況について詳しい知識を持ち、事件や出来事の現場で取材したか。

 (7)多様な意見 編集部は多様な視点を提供する努力をしているか。

 (8)フィードバックの活用 編集部は記事の優先順位や報じる過程、正確さの確保などで、読者(視聴者)の意見を生かすよう努めているか。

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 同プロジェクトには欧米の他にブラジルに支部があり、半年後にはアジアでも立ち上げたいそうです。

 ラーマンさんは「信頼回復には透明性が大切」。ニュースが世の中に出るまでの過程を明らかにし、読者(視聴者)の声に耳を傾けて、いい関係を作ることが必要だ、と言います。確かに、いくらメディアが一方的に記事の信頼性を主張しても、人々にわかりやすい形で示さなければ意味がありません。

 ネットで誰もがフラットにつながる時代には、読者にとって記者は対等な存在。記事にも、そこに1人の人間がいるという手応えを求めています。一方、記者たちはあくまでも大事なのは自身を語ることでなく、事実を伝えることと考えがちです。メディア不信要因の一つは、こうしたすれ違いなのかもしれません。

 このコラム「パブリックエディターから」でも、4月17日付朝刊で湯浅誠PEが長時間労働など、朝日新聞社自体も当事者である問題について「他人(ひと)ごとのように書くのではなく、自分たちはどう行動し、悩んでいるかを読者に伝えるべきではないか」と問題提起し、読者に「どう考えますか」と問いかけました。直後のアンケートに回答した紙面モニター124人の約3分の2が賛同しました。

 そうした読者の意見と、「当事者発信には少々戸惑う」という記者の思いを松村茂雄PEが6月5日付当欄で伝えました。松村PEコラムに対し、紙面モニターからは「従来型の報道では読者は満足しない。どういう事情で編集が行われているのか、不都合なことも含めて伝えることで親しみやファンを増やす」(60代男性)、「『現場ではどうなのか』と読者は常に思っている」(50代女性)といった声がありました。

 読者と報道機関のコミュニケーションがかみ合っているかどうか、第三者の立場で意見する役割は重要です。PE制度の活用と同時に、読者に対して情報を判断する材料を積極的に提供することも、今の時代の報道機関の果たすべき役割でしょう。

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 こじま・けいこ エッセイスト、東京大学大学院情報学環客員研究員。1972年生まれ。著書に「解縛(げばく)」、新刊小説「幸せな結婚」など。

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