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 土用の丑(うし)の日が近づき、ウナギのかば焼きが恋しい季節です。が、近年、養殖用の稚魚、シラスウナギは記録的な不漁で、半世紀前の約10分の1にまで減少。取りすぎによる資源枯渇が心配されています。そもそもニホンウナギは絶滅危惧種。おいしく食べ続けるために、私たち消費者にできることは?

 ■取れた稚魚、たった3匹

 「この冬は不漁すぎて、シラスウナギをヤミに流す人もいなかった」

 鹿児島県のある漁協組合長はそう語りました。

 昨年から今年にかけての漁期で、全国の漁獲は8.9トン。ウナギ養殖量日本一の同県は前年比67%減の192キロ。最も取れるはずの解禁日、組合長の漁獲は3匹でした。例年、県の許可に基づく正規ルートの倍以上で買う業者に流す人もいますが、「ヤミに流せるのが数匹なら差益も数百円。違反する危険に見合わなかったのでは」。

 当然、消費者価格も上がります。

 江戸期創業の老舗うなぎ店「大江戸」(東京都中央区)は5月、うな重を15%値上げし、「極上」は9千円に。仕入れ値は昨年の5割増しですが、「さらに値上げすればお客さんが離れる。赤字ですが仕方ありません」と湧井恭行社長(77)は話します。

 2014年に国際自然保護連合(IUCN)から、環境省からは13年に絶滅危惧種に指定されたニホンウナギ。ウナギの減少について、「漁獲が明らかに大きな要因」と語るのは、塚本勝巳・日本大教授(海洋生命科学)です。現在、8割超のウナギが海または河口で一生暮らすといい、「川が人為的な環境変化ですみにくくなった結果かもしれません」と塚本教授。それでも今、より環境の安定した海に相当数の親がいるのに減り続ける事実は「シラスウナギを含めた河口・淡水域のウナギを取りすぎた影響を示唆するものです」と指摘します。

 資源管理の前提となるデータの不備も指摘されています。

 養殖業者が国に届ける国産シラスウナギの仕入れ量は、都道府県の許可を受けたシラスウナギ漁業者の報告による漁獲量を大幅に上回ります。その差は密漁や報告義務違反と水産庁はみています。

 海部健三・中央大准教授(保全生態学)は「違反が多すぎて、シラスウナギがどこでどう取れたかも不明です。保護の基礎データが不足しているのが現状」と言います。

 水産庁は14年、養殖業者のシラスウナギ仕入れ量に上限を設けましたが、正規と違反のシラスウナギは養殖場までの流通で混ざり、判別不能に。その結果、「大半のウナギ商品には問題がある」(海部准教授)ことになりますが、消費者が正規品を選ぶのはきわめて困難です。

 ■保護厚い欧州/中国で需要増

 水産庁は近海の50魚種で、一部の種は複数グループに分け、計84グループの資源状態を調べています。昨年、39グループが「低位」でした。この中で水産庁が漁獲制限するのは7魚種19グループ。資源管理の網がかかる魚は一部です。ニホンウナギにもシラスウナギの間接的な漁獲制限はありますが、漁獲中止の指示が出たことはありません。

 一方、ヨーロッパウナギでは、EUが資源管理計画を決め、取ったシラスウナギの6割を放流するなどの対策を取ってきました。そして10年代はシラスウナギ発生量にわずかながら改善が報告されています。

 田中栄次・東京海洋大教授(水産資源学)は「欧州はデータが豊富で前年の資源との差も分析できます。日本では10年単位の増減が限界」。欧州でヨーロッパウナギの資源評価に使われるデータは、各国が計72カ所で定期的に調査しています。

 日大の塚本教授は、欧州のウナギ保護の手厚さを痛感してきました。「産卵場調査をはじめとする生態の研究は日本が先んじていますが、資源研究は欧州がトップ。研究者だけでなく社会全体が、環境の一部としてのウナギを守る意識が高い」

 資源減少の背景には、消費の増加があります。国連食糧農業機関(FAO)のデータで計算すると、00年ごろは世界のウナギの7割を日本が消費していました。その需要を支えた中国は、ヨーロッパウナギのシラスウナギを仕入れて大量養殖。激減したヨーロッパウナギは08年に絶滅危惧種になり、09年にはワシントン条約で取引が規制されました。

 その後、世界のウナギ消費量トップは中国に取って代わり、人気の食べ方は「日本式のかば焼き」(輸入関係者)だそうです。日本発の食文化が、消費の増大につながっているなら、資源を持続させる方法も考えていかなければならないでしょう。

 そんな課題に答えるかのように近年、かば焼きの価格に、資源保護のための支援金が含まれるという商品が出ています。ある業者は支援金を積み立てて、「資源回復に有効な手段として注目される石倉かご」の設置に使うとしています。

 石倉かごは、一辺1メートル前後のカゴに石を詰めて川に沈めるもの。考案者の望岡典隆・九州大准教授(水産増殖学)に聞くと、確かにウナギはすみ着くそうです。ただ、それでウナギが増えるかは検証中で、「生息環境の底上げにつながる護岸設計などに生かす研究です」とのことでした。

 ■エコな漁業、消費者意識

 イオンは6月、東南アジアのウナギ、ビカーラ種で、保護と両立する養殖を目指す、と発表しました。川で親ウナギの生息量をチェックしつつ、親が減らない範囲でシラスウナギを取るといいます。23年までに、持続可能な漁業を認証する国際機関「海洋管理協議会(MSC)」(本部・英国)の認証取得を目指す、としています。

 認証されれば、消費者が選べる初のエコなウナギとなりそうです。

 欧米では、消費者が適切に漁獲された魚を店頭で選べるエコラベル=写真、MSC提供=が普及しています。イオンがウナギ養殖の「お墨付き」としたいMSCが代表格です。

 西友の親会社、米ウォルマートは昨年、米国内販売の天然魚の36%がMSCや同水準のエコラベル付き。ほかもすべて認証を目指す漁業の漁獲物でした。仏大手カルフールも昨年、自国内で販売した魚の35%がエコラベル付きです。

 MSCは設立20年の昨年、世界の大半の海域で、認証した漁業の対象魚の生息量が00年時点よりも増えた、と発表しました。多くの種で数割増えたといいます。消費者が健全漁業を買い支える形に、実績が伴いつつある、と言えそうです。

 日本では、最も扱いが多いとされるイオン(イオンリテール)でもエコラベル水産品は約10%。担当者は「国外大手の展開状況も見て、強化を急いでいる」と話しました。

 日本独自の認証制度もあります。水産団体の大日本水産会が07年に立ち上げたマリン・エコラベル・ジャパン(MEL)は、水産庁も普及を後押ししています。

 ただ、課題もあります。各国のエコラベル事情に詳しい阪口功・学習院大教授(地球環境ガバナンス)は、「MELは基準が緩く、審査の透明性に欠ける」と指摘します。

 例えば今年、認証の継続を決めた定置網漁業が昨年漁獲したクロマグロ幼魚は、資源保護のために北海道に割り当てられた漁獲枠の3倍超。この影響で、全国の漁業者が漁の自粛を余儀なくされました。MELの審査担当者にこの判断理由を尋ねましたが、「個別の審査内容は言えない」との返答でした。

 信頼性の高いエコラベルが欧米で広がった理由について、阪口教授は「NGOが小売企業を批判し、認証制度を監視し続けたのです。消費者が消費には責任が伴うと理解していることも背景にあります」と解説します。「乱獲や違法漁獲が疑われる魚は、安価でも購入を避ける。そんな決意が、子供たちが魚を食べ続けられる将来をつくります」

 ■「絶滅前に食べる」気持ちは分かるが…

 「この冬、うなぎ屋が急に繁盛したそうですよ」。そんな話を聞きました。シラスウナギ不漁のニュースが流れた頃だったとか。

 東京の老舗、大江戸の湧井さんに聞くと、「ありましたね。絶滅するなら今のうちに食べておこう、ということかもしれません。残念ですが」と教えてくれました。

 気持ちは分かります。

 1人当たりのウナギ消費量が全国一になったこともある津市出身の母親の影響で、私はウナギが大好きです。法事の時に頼む出前の定番もうな丼という環境で育ちました。

 今では高くて食べられず、「それなら自前で」とここ数年、釣れないウナギ釣りを続けてきましたが、今回の取材を機にやめました。

 ウナギ好きのみなさん。自分で出来ること、一緒に考えませんか?

 (長野剛)

 ◇来週はお休みし、16日は「芝園団地」を掲載します。

 ◇ウナギについての体験やご意見をお寄せ下さい。asahi_forum@asahi.comメールするか、ファクス03・3545・0201、〒104・8011(所在地不要)朝日新聞社 編集局長室「フォーラム面」へ。

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