(社説)首都高地下化 費用と効果の見極めを

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 江戸時代、全国に通ずる五街道の起点とされた東京・日本橋。歴史的な名所だが、いまは頭上を高速道路が覆い、薄暗い川の流れを遮るように高架を支える柱が並ぶ。

 この高架をなくせば、開放的な景色に一変するに違いない。だが、それにはいくらかかるのか。費用に見合う意義があるのか。実施するとすれば、だれが負担するのか。納得のいく答えを出さねばならない。

 日本橋の上を通る首都高速道路を地下に移す計画について、国土交通省東京都、首都高会社などが、数千億円とみられる事業費の見積もりと、どう分担するかの検討を進めている。

 すでに固めたルート案では、高架道路のうち日本橋付近の1キロ余りを地下に移す。この区間は老朽化が進み、更新の時期が迫っている。高架のまま造り直す場合でも1千億円以上かかる見通しだが、地下だと、費用はさらに1千億~2千億円増えるとの見方が強い。

 日本橋に空を取り戻す構想は、地元にとって長年の悲願だった。近くでは民間による大がかりな再開発計画が進んでおり、これに合わせて高架をなくすことは、街並みを大切にする象徴的な取り組みになり得る。

 とはいえ、景観の向上や街の活性化、訪れる人の増加などに、巨額の公金を投じるだけの価値があるのか、疑問に思う人も少なくないだろう。

 日本橋の高架をめぐっては、都心の外側で進む環状道路の整備に合わせて単純に撤去する、というアイデアもあった。政府や関係自治体には、「地下化ありき」ではなく、その費用対効果や必要性を見極め、丁寧に説明する責任がある。

 その上で、地下化を進めるのであれば、費用の中身についても透明性のある議論を尽くし、実際に負担する道路利用者や納税者らの理解を得ることが欠かせない。

 費用の分担は、地下化によって受ける恩恵や利益に応じて決めるのが筋だ。首都高会社の負担は、高架のまま更新する場合でも必要な金額を基本とし、税金の投入は、都など関係自治体が中心になるべきだろう。再開発で利益を得る民間企業にも、負担を求める必要がある。

 日本橋の首都高は、前回の東京五輪に間に合わせるため、急いで造られた。それから半世紀余り。社会の意識は大きく変わった。公共インフラを整備する際に、利便性と景観や文化的な価値、コストなどのバランスをどうとるのか、考えを深める材料にしたい。

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