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 知らぬ間に自分が防犯カメラに映っている。いつ、どこに行ったか、足跡がさまざまな記録に残る。そんな社会が、今や当たり前になっている。

 監視の技術は日進月歩だ。最近では、人工知能(AI)を使った顔認証が世界各地で広まっている。多数の人々の動向を瞬時にとらえ、当局に伝える。

 犯罪やテロ防止などの名目で加速する変化を、市民の側はどれほど意識しているだろう。人権やプライバシーをめぐる議論が置き去りになっていないか。

 極端なケースが中国だ。一部の都市では、警察官が顔認証できる眼鏡状のAIカメラを身につけてパトロールを始めた。イベント会場などで指名手配容疑者が摘発されているという。

 高速鉄道の改札や大学構内に入る際など、身分証提示による本人確認を顔認証に変える仕組みも試験的に始まった。

 先端技術による大量チェックは確かに治安対策としては効率的だ。市民にとっても、本人検査の列に並ぶなどの負担が減る便利さがある。

 しかし懸念されるのは、それを、誰が、何のために、どのように使うかという問題だ。

 中国の場合、異様な使い方が伝えられている。少数民族問題を抱える新疆ウイグル自治区では、特定の人物が自宅や職場、通勤路から300メートル以上離れると、カメラの顔認証を通じて当局に通報されるという。

 監視が政府批判を抑え込むためのものであってはならない。当局が故意に選ぶ思想信条、人種、宗教などによりプライバシーが侵されるならば、明らかな人権侵害だ。

 きょうはノーベル平和賞を受賞した劉暁波(リウシアオポー)氏の一周忌だ。妻の劉霞(リウシア)さんは8年近くもの間、不当な軟禁状態に置かれた。力ずくで異論を封じ込める中国のような体制が、強力な監視システムを備えるのは実に危うい。

 ひるがえって日本は、言論や集会、移動など、基本的な自由が保障された国だ。それでもネットや携帯、防犯カメラなどを通じて、大量の個人情報が企業などに蓄積されている。

 スノーデン事件で、米国の情報機関が世界的に盗聴網を張り巡らせている現実も明らかになった。問題は中国だけにとどまらない。最先端の技術をいかに治安対策に利用するかは、東京五輪などでも課題となろう。

 市民も対象となる監視システムは、十分な透明性が保たれなければならない。理不尽なプライバシーの侵害はないか。市民の側も、しっかりと権力を監視する必要がある。

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