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 冷戦の時代、「西側世界」という言葉がよく使われた。ソ連を中心とした共産圏に対抗した、米国と西欧が結束した自由主義世界のことである。

 冷戦後もなお、米欧の連帯は自由や法の支配などの規範を世界に広める基盤であり続けた。そのかけがえのない同盟関係に揺らぎが見え始めている。

 トランプ米大統領による今月の欧州歴訪は、米欧に忍び寄る離反の危機を印象づけた。欧州連合(EU)を「敵」と呼び、ロシアにすり寄るという異例の米外交が鮮明になったからだ。

 トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)の会合で、安全を守るための米国の負担が重すぎると不満をぶちまけた。さらに貿易面で欧州は、米国を利用していると非難を重ねた。

 ロシアから天然ガス輸入を増やすドイツを「ロシアの捕虜」と呼び、訪問先の英国の首相の政治手腕をけなすなど、外交上の礼を失する言動も続いた。

 ロンドンの市民による反トランプ氏のデモを非難し、自身に対するメディア報道にも批判を繰り返した。表現の自由に対する侮蔑的な発言に欧州はじめ世界が見たのは、もはや自由主義の旗手たり得ない米国の姿だっただろう。

 一方でトランプ氏は、ロシアのプーチン大統領との会談では「最悪だった両国関係が変わった」と成果を強調した。だが、国際社会が両国に望む核軍縮やシリア問題などをめぐっては、特段の進展はなかった。

 2年前の米大統領選にロシアが介入した疑惑について、トランプ氏はプーチン氏との会談後に「魔女狩りだ」と否定した。その点で2人は意気投合したようだ。ロシアによる一方的なクリミア併合などの責任を問うこともなかった。

 かつて「西側世界」を結びつけた価値観による同盟は、トランプ氏にとっては取引材料でしかないのだろう。最優先するのは目先の通商の利益であり、日本やEUなどの鉄鋼・アルミ製品に「安全保障」を理由に高関税を課したことも、貧弱な同盟観を示している。

 「価値観外交」を掲げてきた安倍首相は、トランプ氏との親密さを強調してきた。しかし、個人的な関係も大して意味をもたないトランプ氏に追従するだけでは、道を誤る。

 自国第一主義が広まれば、各国が狭い権益確保に走りかねない。国際協調にもとづく国際秩序を守る責務を、欧州とともに日本も自覚する必要がある。今回の欧州が抱いた失望感は決して、ひとごとではない。

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