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 車いすの人や体の弱いお年寄り、ベビーカーの家族連れらが皆、暮らしやすい社会を作っていく。その「共生」への行政の意識と姿勢が問われている。

 戦時の空襲で焼失し、戦後にコンクリート製で再建された名古屋城の天守について、名古屋市が建て替え計画を進めている。市は、徳川家康の命で築かれ国宝にも指定されていた旧天守を木造で忠実に再現するとして、天守に上がるためのエレベーターをなくすことにした。

 これに障害者団体が抗議している。高齢者や障害者の円滑な移動を目指すバリアフリー法や、行政に障害者への合理的配慮を義務づける障害者差別解消法などに反すると訴える。

 木造での復元を唱える河村たかし市長は、豊富に残る資料をもとに「寸分たがわぬ復元ができる」として「本物」を目指すと強調する。「都市として自慢できるものが欲しい」とも話し、訪日外国人らを狙った観光戦略の一環でもあるようだ。

 しかし、施設や商品作りでは、誰もが使いやすい「ユニバーサルデザイン」が意識されるようになっている。そんな今の時代に新たにつくる建築物であり、計画では500億円を超す公費も投じる。一部の人が利用できないとわかっているのに、見切り発車するべきではない。

 河村氏は、障害者らが天守に上がれるよう、エレベーターに代わる「新技術」の導入案を例示した。各種のロボットやドローン、はしご車の活用などだが、実現は見通せておらず、障害者団体は「もの扱いされている」などと反発している。

 障害者らは、訴えに耳を貸そうとしない市長に対して「差別されている」と感じている。住みよい街を目指してともに手を携えていく姿勢を欠くことに、問題の根本がある。

 そもそも、「史実に忠実な復元」にはおのずと限界がある。輸入材も電気も使うし、法律に基づいて火災報知機をつける必要もある。建築を担当する大手ゼネコンの当初の提案には、小型ながらエレベーターが組み込まれていた。

 昔の資料にないからと、障害者らに我慢を強いてまで「エレベーターなし」にこだわることに説得力は乏しい。愛知県も「基本的人権にかかわる、極めて重大な事案」と懸念を示し、再考を促している。やはりエレベーターが必要だ。

 「尾張名古屋は城でもつ」と言われるように、名古屋城は地域のシンボルだ。今の計画を強行すれば、新しい城が「排除」のシンボルになりかねない。

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