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 五輪を掲げれば、無理な話も通ると思っているのだろうか。

 東京オリンピック・パラリンピックの大会組織委員会が、標準時を早めるサマータイムを導入するよう、政府に求めた。安倍首相は「内閣としても考える」としつつ、自民党に検討を指示した。

 組織委は、低炭素社会づくりに向けた五輪のレガシー(遺産)にするという。聞こえはいいが、手段が目的に合うのか、コストや副作用はどれほどなのか、筋道だった説明はない。

 東京五輪での暑さ対策が狙いなら、競技の時間を変えればいい話だ。あまりにずさんな提案に、驚くしかない。

 現代社会では、情報通信機器は重要なインフラだ。システムの根幹にかかわる「時刻」をいじれば、どれほどの改修が必要になるのか。五輪までの2年間で万全にできるのか。費用はいくらで誰が負担するのか。

 サマータイムの是非は、これまでも度々議論されてきた。だが様々な問題点が指摘され、導入に至っていない。組織委は秋の臨時国会で議論して欲しいようだが、一足飛びに進めようとする姿勢は受け入れられない。

 サマータイムは、緯度が高い国で夏の日照を有効活用するための仕組みだ。だが近年、冬時間と夏時間の切り替え時に、従来の想定以上に睡眠と健康に影響を及ぼしているとの研究結果が出ている。日本睡眠学会も、いまでも短い日本人の睡眠時間をさらに削り、健康障害を広げかねないと警告している。

 「低炭素社会づくり」にはどの程度結びつくのか。欧州連合はサマータイムのあり方について域内で意見を募っているが、その際、省エネ効果については「わずかで、地理的位置にもよる」と指摘している。

 日本で約10年前に導入が検討された時は、家庭用の照明需要などが減るとの試算もあった。だが、炭素排出量全体と比べれば効果はかなり小さかった。他の不利益を上回る利点があるのか、社会や技術の変化も踏まえて、改めて見極めるべきだ。

 東京五輪に関しては、すでに費用が当初の想定を上回り、祝日の移動も決定された。組織委は、ボランティアの確保や交通混雑の抑制なども課題にあげている。

 大会を混乱なく運営するための工夫は必要だろう。しかし、号令一下で人々を動かそうとするかのような発想は、あってはならない。「錦の御旗」を振り回して日常生活への影響を当然視する姿勢に陥れば、「レガシー」にも傷がつく。

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