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 新たな医療として確立させるため、安全に関するデータを着実に積み上げることが大切だ。

 iPS細胞からつくった神経細胞を、パーキンソン病の患者の脳に移植する京都大の臨床試験(治験)が国の機関で認められ、参加者の募集が始まった。製薬会社と連携し、広く治療が受けられる公的医療保険の適用をめざすという。

 5月には、iPS細胞由来の心筋シートを、心不全の患者に移植する大阪大の臨床研究が了承されている。14年の網膜に始まり、心臓、脳と対象はひろがる。iPS細胞の発見から約10年。異例の早さといえる。

 日本はこれまで、基礎研究を実用化に結びつける過程で後れをとってきた。人材や設備、資金の不足が主な原因だが、態勢が整いつつあるのは喜ばしい。

 ただ、iPS細胞を使った再生医療は、移植した細胞が腫瘍(しゅよう)化するリスクを伴う。先行する網膜の臨床研究では、細胞に評価の難しい遺伝子変異が見つかり、移植を見送ったこともある。脳への移植は世界でも前例がなく、より「安全」の側に立った判断が欠かせない。

 さらに将来の保険適用を考えれば、治療効果はもちろん、コスト面の検証も必須だ。

 ここでも網膜での経験が参考になる。当初は患者自身の細胞からつくったiPS細胞を使ったが、安全性の検査や準備に多額の資金と時間がかかった。京大は今回、備蓄してある拒絶反応が起きにくい免疫の型を持ったiPS細胞を用いる。それでもかなりの費用がかかるとの見方がある。このハードルをどうやって乗り越えるか。

 生みの親である山中伸弥氏がノーベル賞を受賞したこともあって、日本はiPS細胞の研究で先頭を走る。だが世界に目を転じれば、同じ万能細胞のES細胞や、体内の幹細胞を使った研究が先行する分野も少なくない。iPS一辺倒でなく、全体の動向も注視しながら柔軟に戦略を練る必要がある。

 安倍政権は、iPS細胞などを使った再生医療の技術や製品を海外にもひろげて、経済成長につなげる構想を描いている。13年度からの10年間に1100億円を投じ、20年までに35の病気について臨床研究や治験を行うなどの目標を掲げる。

 だが、国が産業化を念頭に研究者を駆り立てるのは危うい。息の長い支援を続け、研究や応用の前に立ちはだかる不合理な障害があれば、取り除いて環境を整える。そんな地道なとり組みの上に、医療や科学の発展があることを忘れてはならない。

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