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 他人の犯罪の解明に協力する見返りに、自らを不起訴にしたり求刑を軽くしたりしてもらう「司法取引」の第1号だ。

 三菱日立パワーシステムズによる発電所建設を巡り、東京地検は、現地タイの公務員に賄賂を贈ったとして、元の取締役、執行役員、部長の3人を不正競争防止法違反の罪で起訴した。一方、捜査に協力した法人としての同社の訴追は見送った。

 かねて日本は、海外事業における贈収賄の防止策の遅れを、国際社会から批判されてきた。新たな捜査手法を使って立件にこぎつけたのは成果だが、釈然としない思いも残る。

 6月に始まったこの制度は、主として、末端の実行行為者の協力を得て、組織ぐるみの犯罪を暴くのが目的だと言われてきた。だが今回、役員にまで捜査の手は及んだものの、企業本体は免責される結果になった。

 同社は15年3月に社内からの通報で事態を把握し、同6月に検察に報告したという。

 その後どんな捜査をしてきたのか。司法取引によってどんな有益な証拠を得たのか。贈賄は被告らの個人的な判断だったのか。理にかなった取引といえるのか。今後の公判を通じて検察はこれらの疑問に答え、疑念の払拭(ふっしょく)に努める必要がある。

 最高検はことし3月、取引するのは「国民の理解を得られる場合でなければならない」との指針を示している。この考えに基づき、検察自身による丁寧な説明が不可欠だ。裁判所にも慎重な審理を求めたい。

 司法取引の導入が4年前にほぼ固まって以降、企業は対応を検討してきた。

 社員教育を徹底し、何より不正行為が起きないようにする。それでも発覚したときは、すみやかに内部調査を行い、司法取引も視野に入れる。公益通報制度をはじめとするコンプライアンス体制を点検・整備し、社内の風通しをよくする――。

 こうした企業側の視点に立てば、今回の取引は想定していた典型例と言うことができる。

 社員や役員個人にすれば、会社のために良かれと思ってした行為でも、会社が守ってくれる時代ではないことが明確になった。板ばさみになって悩む必要はもはやない。今回の摘発を受けて、ビジネスの風土もおのずと変わっていくだろう。

 虚偽の申告によって犯罪と関係ない人が巻きこまれるなど、司法取引にはさまざまな懸念がつきまとう。効用を引き出し、社会に上手に根づかせるための工夫と努力が、この制度にかかわる者すべてに求められる。

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