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 「2050年までに温室効果ガスを80%削減する」という地球温暖化対策の長期目標を、どう実現していくのか。政府の長期戦略づくりが始まる。パリ協定を実行していく上で、きわめて重要なロードマップである。

 今月始まった有識者懇談会の議論を土台に戦略を練る。来年6月に大阪である主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)までにまとめたい考えだ。

 長期目標の閣議決定から2年あまり、政府が戦略づくりに二の足を踏む間、世界は「脱炭素時代」へ急速に転換している。日本も急がねばならない。

 未曽有の原発事故を起こした国として、原発依存度を下げていくこととの両立も重要だ。欧米では再生可能エネルギーのコストが下がり、原発の競争力が失われつつある。再エネや省エネのさらなる拡大につながる野心的な戦略が求められる。

 ■世界に広がる危機感

 パリ協定は「産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1・5度までに抑える」という目標を掲げ、今世紀後半に温室効果ガス排出を実質ゼロにすることをめざしている。

 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の特別報告書案によると、このまま気温が上がり続けると40年代に1・5度に達する。各国が危機感をもって排出削減に取り組んでいるのは当然である。

 たとえば英国は、石炭火力発電を25年までに全廃することを決めた。数年前に約40%だった石炭火力の比率は9%に減っている。カナダや欧州主要国の多くも石炭ゼロの目標を掲げる。

 クリーンエネルギーを拡大する政策も相次いでいる。

 ドイツは50年に電力の80%以上を再エネでまかなう目標を掲げた。英仏は40年までにガソリン・ディーゼル車の新車販売禁止を決めたほか、中国も19年から新車の一定割合を電動車にするよう義務づける。

 ■化石燃料からの撤退

 ビジネスの動きも急だ。

 石炭や石油への投資が回収不能になるのを避けるため、化石燃料からの投資撤退が広がっている。撤退を表明した企業や投資家の運用資産は660兆円を超えた。逆に、環境や社会などを重視する「ESG投資」が2500兆円に急増している。

 マネーが脱炭素に方向転換しているだけでなく、企業の振る舞いも変わりつつある。

 業務で使う電力をすべて再エネでまかなうという目標を掲げる国際的な企業連合「RE100」、企業が科学に基づいて温室効果ガスの削減目標をつくる「SBT」……。脱炭素に取り組むことが企業価値を上げる時代になってきたのだ。

 企業の変化に押され、太陽光や風力などの再エネが伸びている。自然エネルギー財団によると、米国では再エネが広がり、昨年までの7年間で発電にともなう排出量が約23%減った。

 「世の機運は高まっている。とてつもなく多くのよい変化が起きている」。アル・ゴア元米副大統領は映画「不都合な真実2 放置された地球」で、そう語った。脱炭素への流れは、もう逆戻りすることはない。

 日本にも「芽」はある。

 大手生保が石炭火力発電への新規の投融資をしないことを相次いで決めたほか、三つのメガバンクグループも石炭火力への融資を厳しくし始めた。RE100やSBTなどに参加し、ビジネスを低炭素型に切り替えようとする企業も現れている。

 ■30年先の日本の姿

 こうした「芽」を育てるには政策による支援が欠かせない。しかし政府は旧態依然の政策から離れられないでいる。

 たとえば7月に決めたエネルギー基本計画は石炭火力をベースロード電源とし、30年度に全体の26%という目標を維持した。「石炭火力は事業リスクが大きい」(中川雅治環境相)にもかかわらず約30の新設計画があるのは、国が脱石炭をめざしていないことと無縁ではない。

 いまある技術をもとに考えても、30年以上先を見すえる戦略にはなりえない。むしろ野心的なビジョンと目標を掲げることで技術革新を生み、経済や社会を活性化させる。求められるのは、そんな好循環で日本を大胆に変える長期戦略である。

 既存の政策にとらわれず、どれだけ具体的な内容を盛り込めるか。石炭火力からの段階的な撤退や再エネの拡大、電動車の普及などについて目標や工程表を明確にしたい。二酸化炭素の排出に課金するカーボンプライシングの導入や原発依存度を下げる道筋も示すべきだ。

 関係省庁の意見を調整したり産業界に配慮したりするばかりでは、腰の引けた内容になってしまう。政治が国民の声に耳を傾け、慎重論や反対論を乗り越えていくしかない。

 主要7カ国のうち長期戦略をもたないのは日本とイタリアだけだ。脱炭素の流れに乗る最後のチャンスと腹をくくり、思い切った戦略を打ち出したい。

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