[PR]

 地球上のだれ一人も取り残さない持続可能な社会づくり――国連が2030年へ掲げる目標だ。「SDGs」の略称は日本でも徐々に広まってきた。

 人間を脅かすのは戦争に限らない。貧困、疫病、気候変動、資源の枯渇……。それら一切の問題に取り組んでこそ、平和の行動と呼ぶにふさわしい。

 そうした包括的な発想を浸透させてきた国連の活動は、このアフリカ出身の元事務総長を抜きに語れない。18日に亡くなったコフィ・アナン氏である。

 1997~2006年の任期は、激動の時代だった。冷戦後の秩序が定まらない中で起きた米同時多発テロと、アフガニスタンとイラクでの戦争。米国の単独主義により、国連は深刻な試練に立たされた。

 一方で、そのときでも地道に歩を重ねたのがSDGsの前身の「ミレニアム開発目標」である。飢餓の撲滅といった人道措置こそ、過激思想の温床をなくす。「人間の安全保障」の発想が、大国による軍事偏重の考え方に対峙(たいじ)した。

 アナン氏がノーベル平和賞の演説で語った言葉は今も重い。「世界のどこかで起きた人道や人権の危機を、別の地域の安全保障の危機から切り離すことはできない」。それはグローバル化世界の冷徹な現実である。

 しかし、あれから10余年たった今、多国間の協調が深化したとは言いがたい。むしろ近年は自国第一主義が勢いづいているのは嘆くばかりだ。

 トランプ米政権は国連教育科学文化機関(ユネスコ)や人権理事会からの脱退を決めた。国連安全保障理事会は、「米欧」対「中国・ロシア」の構図が続き、さまざまな紛争の危機でも機能不全に陥っている。

 アナン氏が平和維持活動(PKO)局長だった90年代、ルワンダとボスニアで虐殺が起きた。その悲劇は世界の良心を問うたはずだが、再びシリアなどで甚大な被害を生んだ現実を、国連加盟国は恥じるしかない。

 国連の意義は何か。その役割と機能を強めるために何が必要か。未解決の課題を残したアナン氏の死去を機に、国連を立て直す道筋をもう一度、日本政府も考え、提起してはどうか。

 「世界の平和と協力を実現する交渉の道は、国連を通じてしかありえない」。ノーベル委員会の見解は今も妥当である。

 現在のグテーレス事務総長は、多国間主義の価値と紛争予防の重視を訴えている。SDGsとともに国連の機能強化は、日本を含む全加盟国に課せられた責務と考えるべきだ。

こんなニュースも