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 愛らしい子どもの絵を描いた絵本画家いわさきちひろ(1918~74)が今年、生誕100年を迎えた。戦争体験から絵に込められた平和への思いは、今も多くの人の心に響き、各地で画業を紹介する展覧会が相次いで開かれている。

 東京駅直結の東京ステーションギャラリーで7月から始まった回顧展では、約200点の作品が展示され、すでに約3万3500人が来場している。このお盆には特ににぎわいをみせ、長年のファンだった高齢の人や家族連れらが訪れているという。

 絵の特徴は、眉毛がなく、つぶらな黒い瞳をした子ども。ちひろ美術館・東京の企画展に11月3日から登場する写真家の長島有里枝さんは「子どもを見て可愛いと思う、大切に思うということが平和につながると本当に信じていたのだと思う」。

 ちひろの長男で美術評論家の松本猛さんは「何の罪もない子どもを犠牲にしてはいけないという強い思いがあった。愛され続けているのは、今もそう信じる人たちがいるからこそだろう」と話した。

 ちひろは生前、こう語っている。「青春時代のあの若々しい希望を何もかもうち砕いてしまう戦争体験があったことが、私の生き方を大きく方向づけているんだと思います。平和で、豊かで、美しく、可愛いものがほんとうに好きで、そういうものをこわしていこうとする力に限りない憤りを感じます」

 女学校に入った12歳で満州事変が起こり、終戦直前の大空襲では家を焼け出され、命からがら逃げ惑う体験をした。

 戦後、平和運動に注力。活動の中で洋画家丸木俊(とし)(1912~2000)にも出会った。丸木は被爆の惨状を伝える絵本『ひろしまのピカ』で知られる。

 ちひろは出産後、30代後半から挿絵や絵本に本格的に取り組み、肝がんで55歳で亡くなるまで約9500点以上の作品を残した。子どもや花、チョウなどのモチーフを好み、『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子著)の挿絵にも使われた。紙に絵の具をにじませる独特の手法で、草薙奈津子・平塚市美術館長(神奈川県)は「誰にでも取っつきやすい美しさがある」と評する。

 戦争そのものを主題にした絵本も3冊残した。生涯の最後に完成させた絵本『戦火のなかの子どもたち』(73年、岩崎書店)は、戦時下のベトナムの子どもたちと自身の戦争体験を描き、累計部数は22万8千部。鉛筆の線はラフで、モノトーンに近い色使いに抑え、紙がはがれるほどすりつけた消しゴムの跡もある。横を見る子どもの顔には普段は描かなかった白目があり、耐え忍び生きる子どもの心情が迫ってくる。

 被爆者の手記を基にした『わたしがちいさかったときに』(67年、童心社)も累計29万7千部に達した。

 終戦から73年、東アジア情勢は緊迫し、憲法改正も政治日程に登場しつつある。松本さんは「ちひろは戦後の平和運動や民主化運動の機運が高まる中で画家として歩み始め、憲法に込められた平和主義の精神が、生き方の根幹を貫いた。絵はその精神を今もなお伝えている」と話す。(森本未紀)

 ■各地で展覧会

 東京都千代田区の東京ステーションギャラリーの回顧展「生誕100年 いわさきちひろ、絵描きです。」は9月9日まで。9月3日を除く月曜休館。京都、福岡にも巡回予定。

 東京都練馬区と長野県松川村にある「ちひろ美術館」では、ちひろの作品と現代作家がコラボレーションする「Life展」を年間企画として開催中。

 <訂正して、おわびします>

 ▼21日付文化・文芸面「いわさきちひろ生誕100年」の記事で、「『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子著)の挿絵も手がけた」としたのは不正確な表現でした。いわさきちひろが生前に描いた絵が挿絵に使われたものでした。

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