通常国会の閉会から1カ月。告示まで10日余りというタイミングで、ようやく安倍首相が自民党総裁選への立候補を表明した。ただし、5年8カ月に及ぶ政権運営をどう総括し、新たな3年の任期にどう臨むのか、具体的な政策の発表は先送りされた。拍子抜けである。

 半月前に意思表示した石破茂・元幹事長は、その後、憲法、地方創生など、テーマごとに長時間の記者会見を開くなど、発信を強めている。

 これに対し、首相側の消極姿勢が際立っている。石破氏との論戦を避けるため、出馬表明をギリギリまで遅らせたとの見方もあるほどだ。

 首相はきのう、日本の国づくりについて「骨太の議論をしたい」と述べた。本心なら、速やかに自らの構想を示し、堂々と意見を戦わせてほしい。

 内政・外交とも論じるべきテーマは多岐にわたるが、首相が引き続き政権を担おうというのであれば、政治や行政への信頼を失墜させた森友・加計学園の問題に、正面から向き合うことが大前提である。

 朝日新聞が今月初めに行った世論調査では、首相は国会で説明責任を果たしていないとの答えが77%にのぼった。党内の多数派工作に成功して、総裁選を乗り切ったとしても、国民の不信が澱(おり)のように残ったままでは、来年夏の参院選などで厳しいしっぺ返しがありうると覚悟すべきだ。

 今のところ首相の視線は、憲法改正の争点化に向いているようだ。今月中旬の講演では「党としての憲法改正案を次の国会に提出できるよう、取りまとめを加速すべきだ」と強調した。

 ただ、首相は最近まで、改憲は「スケジュールありきではない」と語っていた。安倍1強政治の下で均衡を失った立法府と行政府の関係など、憲法が定める国の統治の仕組みを立て直すことこそが先決だ。

 石破氏は政策テーマごとの討論会を提案している。論戦を実のあるものにすべく、ぜひ実現してほしい。

 一方、気になるのが、石破氏が最近になって、立候補表明時に掲げたキャッチフレーズ「正直、公正」を今後使わない考えを示したことだ。「首相への個人攻撃」という党内の反発に配慮したのだろう。

 首相の政治姿勢に対する批判を、個人攻撃として排除しようとする側に問題があるが、政権の問題点を指摘できないようでは、総裁選に名乗りをあげた意味がない。石破氏にはひるまず首相に論戦を挑んでほしい。