[PR]

 地震に襲われた北海道のほぼ全域で一時停電した。最大の火力発電所がダメージを受けて需給のバランスが崩れ、ドミノ倒しのように発電所が止まった。長引く停電は道民の生活を直撃しているが、完全復旧までは1週間以上かかる見通しだ。

 ■信号機・病院…都市機能マヒ

 「ピイーッ!」「どうぞ渡ってください」

 6日午前8時半、札幌市の中心部を貫く大通公園近くの交差点では、早朝から交通整理する警察官の笛や声が響き渡った。車はゆっくりと交差点に進入、人々は左右を確認しながら慎重に渡っていた。

 市内のほとんどの交差点の信号機は消えたままで、警察官の姿も見えない。車は譲り合いながら走るため、渋滞が発生。出合い頭に衝突しそうになると、クラクションを鳴らしあった。

 鉄道や地下鉄、路線バスは終日運休した。1日平均60万人以上が利用する札幌市営地下鉄。都心から10分ほどの円山公園駅の入り口では、人々が訪れては「閉鎖中」の貼り紙を見て帰っていった。

 午前9時過ぎに来た無職男性(80)は「これまでは地震で停電しても、すぐに復旧していた。こんなに長い停電は初めてだ」と話す。

 テレビが見られず、数少ない情報源や通信手段となったのが、スマートフォンや携帯電話。電源を求める市民の姿もあり、札幌市役所は本庁舎で充電サービスを始めたが、午後1時半までに「受付を終了」の看板が出た。充電を求める人々の列は庁舎外まで延びていたが、「今から並んでも4時間かかり閉庁になる」という理由だ。「もう終わりってどういうこと」と警備員に詰め寄る女性もいた。

 午前11時ごろ、札幌市中央区の14階建てマンションに住む女性(76)は食料や水が入ったスーパーの袋を両手に、マンション入り口で空を見上げた。部屋は13階。「足があまりよくないので、エレベーターが止まって下りるのに苦労した。高層の部屋に住むのも考えものです」と話した。

 病院にも影響が出た。市内の病院に入院していた0歳の女児が酸素呼吸器が停電で使えなくなり、重症という。女児は別の病院に転院し、手当てを受けている。停電のため、救急の受け入れができる病院も限られている。

 ■電力需給崩れ「ブラックアウト」

 「極めてレアなケース。すべての電源が落ちるリスクは低いとみていた」

 6日午後、札幌市の北海道電力本店。停電で薄暗い1階ロビーに設けられた会見場で、真弓明彦社長は、こわばった表情で話した。

 今回の停電は、離島などを除く北海道のほぼ全域で発生した。電気事業連合会によると、大手電力会社のほぼ全域に及ぶ大規模停電は初めてだ。

 今回の停電の発端となった苫東厚真火力発電所(北海道厚真町)は、北電で最大の火力発電所であり、3基の能力は計165万キロワット。地震でとまり、北電は、この時点の供給力の半分以上を一気に失った。需給のバランスが崩れ、その影響がほかの発電所にも及んで停止。道内全域の停電に追い込まれた。

 経済産業省が想定していた北海道での発電設備トラブルによる供給力減少は129万キロワット。「(165万キロワットは)想定外だった」と担当者も話す。

 電気はためることができないため、必要な分だけを発電所で出力を細かく調整しながら供給する。そのバランスをみるための指標が「周波数」だ。発電機の回転速度にあたる。

 電気の供給が増えると周波数は高くなり、需要が増えると周波数は低くなる。北海道を含む東日本では周波数を常に50ヘルツになるように制御している。

 しかし、需要と供給のバランスが急激に崩れて周波数が乱れると、タービンの故障やシステムの異常が起こりやすくなる。これを避けるため、電力の供給を自動的に遮断する仕組みが元々備わっている。

 大阪電気通信大の伊与田功教授(電力系統工学)は「北海道各地で電気の遮断がドミノ倒しのようにいっせいに起き、すべての発電機が電気系統から離れて広域で停電する『ブラックアウト(全系崩壊)』が起きた」と話す。

 今後は、とめていた水力発電を動かし、そこでつくった電気を使って火力発電などを順次、稼働させていく。ただ、十分な供給力を確保するには、ボイラーやタービンを損傷した苫東厚真火力の復旧が欠かせず、1週間以上かかるという。

 ■停止中の泊原発、外部電源一時喪失

 6日未明に発生した地震による停電で、北海道電力泊原発1~3号機(北海道泊村)では、外部電源が一時的に喪失。約9時間半にわたり非常用ディーゼル発電機で電気を供給し、使用済み燃料プールにある核燃料の冷却を続けた。地震発生当時、3基はいずれも運転停止中で、原子炉内に核燃料はなかった。

 原子力規制委員会によると、6回線ある外部電源からの送電線のうち1回線が午前9時前に復旧。午後1時までに3基への電気供給が回復した。原発の安全にかかわる機器や、所内の放射線量を測るモニタリングポストの数値に異常はないという。

 停電などの影響で、道内91局のモニタリングポストのうち最大21局が停止したが、復旧が進んでいる。

 ■本州側からの融通にも課題

 今回の大停電は「想定外」とは言い切れない。

 2011年の東日本大震災では、東京電力福島第一原発など多くの原発が止まり、首都圏では計画停電が実施された。一カ所に多くの発電設備を置く「集中立地」のリスクへの対応は、震災の教訓の一つだった。

 北海道での大停電が、暖房などで電力がより必要な冬に起きていたら、被害はさらに大きくなった可能性がある。

 電力会社間の電力の融通にも課題が残った。

 北海道と本州の間には電力をやりとりできる「北本連系線」があり、頼みの綱のはずだった。

 距離が長くても送電が安定するよう直流を採用しているため、北電が本州から電力を受け取るには、北海道側で受け取った直流から通常の交流に変換しなければならない。変換の装置を動かすために交流の電気が必要だが、停電のために調達できず、すぐに使えなかった。

 しかも、連系線の能力は最大60万キロワット。苫東厚真火力の発電能力の2分の1に及ばない。北電は外部電源がいらない新しい連系線を本州との間に建設しているが、今回の事態には間に合わなかった。

 大阪府立大の石亀篤司教授(電力システム工学)は「本州から受け取れる電力は多くなく、北海道内はほぼ独立した系統。地震の発生が(電力消費の比較的少ない)未明で発電所の多くが止まっていたため、出力のバランスを維持するのが難しかったのではないか」とみる。

 同様の大規模停電が北海道以外で起きる可能性はあるのか。ほとんどの電力会社は、複数の電力会社と外部電源が必要でない連系線でつながっている。石亀さんは「可能性は低いだろう」とみる。

 一方、電力のシステムに詳しい荻本和彦・東京大特任教授は「地震はどこでも起こりうるので、電源の種類や場所を分散することで停電リスクを減らすことが重要だ。だが、完璧にするのは難しいので、大規模停電が起きた際の減災対策を考えておく必要がある」と指摘する。

こんなニュースも