生乳、廃棄する牧場も 停電で出荷先操業停止 北海道地震
北海道の地震に伴う停電は、大規模化が進む酪農地帯を直撃した。出荷先の乳業工場が操業を停止した影響で、牛乳の原料となる生乳を捨てる牧場が少なくない。北海道は生乳の生産量が全国の半分以上を占める。本州以南の小売店で牛乳が一時的に品薄になるといった影響も出ている。
■「1日損失2億円」 根室管内
十勝平野の西端に位置する新得町。乳牛約900頭を抱え、道内有数の規模の友夢(ゆうむ)牧場では、停電が続くなか、非常用の発電機を使って1日2回の搾乳作業を続けている。乳牛は毎日2回の乳搾りをしないと体調が悪くなってしまう。出荷のめどが立たなくても搾乳は止められない。ライナーと呼ばれる吸引器を牛の乳頭に取り付けていく。だが、搾った生乳は廃棄している。出荷先の乳業メーカーの工場が停電で操業を停止しているからだ。代表の植田昌仁さん(49)は「もう2日分も投げた(廃棄した)」とぼやく。1日の生産量は約26トン。2日間で500万円超の損失が出た計算だ。
JA新得町によると地元の酪農家35軒のうち発電機を持つのは7軒だけ。業者からレンタルしたり、農家が使わない時間帯に借りたりして順番に使い、全35軒が最低でも1日1回は搾乳をしているが、生乳は廃棄している。「こんな体験は初めて。早く正常化してほしい」とJAの担当者は話す。
北海道庁で7日に開かれた災害対策会議では、乳業工場の受け入れ停止による生乳廃棄が各地から報告された。酪農が盛んな根室管内からは「少なく見積もって、1日あたり2億円の損失」との説明があった。
停電は解消しつつあり、操業を停止した工場は徐々に再開しているが、農林水産省によると、道内にある39工場のうち6日に稼働したのは、自家発電で電力を賄えた地場の乳業大手、よつ葉乳業(札幌市)の2工場だけ。7日は11カ所に増えたが、全面復旧にはなお時間がかかりそうだ。
道内の全7工場が操業を停止した雪印メグミルクは、うち2工場で停電が解消したが生産再開のめどは立っておらず、全7工場で生乳の受け入れもできていない。明治も全工場で再開の見通しが立たず、生乳の受け入れを止めている。森永乳業も関連会社を含め4工場で停電が続いており、「賞味期限の短い牛乳は、本州への供給が厳しくなるかもしれない」と話す。
9月は学校給食の再開に伴って消費量が増え、需給が厳しくなる時期にあたるが、北海道から茨城県に毎日生乳を運ぶ専用船が台風21号の影響で9月4、5日に欠航。6日は出港したが、7日は停電で港湾設備が機能せず、出港できなかった。そのため関東地方などの乳業工場では原料の貯蔵量が少なくなっている。
小売店では一時的に品薄になりそうだ。首都圏で100店以上を展開する中堅スーパーは「地震の影響で一部の商品が入荷できない」と客に知らせる文書を店頭に貼り出した。8~9日に入荷予定だった牛乳のうち一部を届けられないとの連絡が複数メーカーからあった。都内で数十店を運営する食品スーパーにも、地震後に10社以上の取引先から「製造を止めている商品がある」「出荷できない」と連絡があったという。
(長崎潤一郎、高橋末菜、末崎毅)
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。