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 安倍首相は政権5年9カ月の実績の一つとして、外交を掲げる。その看板と実態がかけ離れているのがロシアとの関係だ。

 平和条約の交渉が進んでいるかのような発言は、誇張が過ぎる。現実から遊離した説明は国民の理解を妨げるうえ、国際的な疑念も招きかねない。

 安倍首相は今週、プーチン大統領と通算22回目の会談をした。今回も、北方四島での共同経済活動を実現させる明確な道筋は開けなかった。

 「我々の新しいアプローチは日ロの協力の姿を確実に変化させている」。首相はそう語ったが、実際は2年前の合意以降、交渉は滞り続けている。

 理由は明白だ。活動をめぐる考え方そのものが異なるからだ。ロシア側は、ロシアの法律が適用されるとしている。人々の往来の仕組みも、四島に限らず、サハリン州と北海道全体が対象だと主張している。

 日本側は四島だけに適用される特別の制度をめざすが、溝は深い。そもそも仮に共同経済活動が実現しても、領土問題の打開につながるわけではない。

 ロシアは、択捉、国後の両島に地対艦ミサイルを配備した。先月は択捉島に新鋭の戦闘機が飛来していることがわかった。四島を戦略上の拠点とし、着々と軍事力強化を進めている。

 ロシア極東ではきのうから、冷戦後で最大規模の軍事演習が始まった。4年ごとに行われてきた演習に今回は初めて中国軍が参加する。中国との戦略的関係を誇示し、米国を牽制(けんせい)する意図があるのは明らかだ。

 ロシアは米欧と緊張した関係を続けている。2014年にウクライナのクリミア半島を一方的に併合し、批判を浴びた。米大統領選への介入疑惑や、英国での元スパイ毒殺未遂疑惑などでも対立を深めている。

 そんななか、日本は主要7カ国の一員としてロシアに制裁を科しつつ、プーチン氏を持ち上げる首脳会談を重ねてきた。法の支配などの原則を毅然(きぜん)と主張しない日本の姿に、疑問の目が注がれても仕方あるまい。

 ロシアとの国境を画定して平和条約を締結する。それが戦後日本に残された大きな課題であることは論をまたない。だが、その根本的な目的は、米国、中国、朝鮮半島を含むアジア太平洋の平和と安定を長期的に確保することにあるはずだ。

 国際関係の大きな構図の中に日ロ関係を位置づけることを忘れ、親密な首脳関係と経済協力だけをてこに領土問題の譲歩を求める。そんな対ロシア交渉では、展望は開けない。

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