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 長年の交渉の積み重ねをひっくり返す、横紙破りの提案と言うほかない。

 ロシア極東での国際会合で、プーチン大統領が突然、日本との平和条約を年内に結ぶことを提案した。懸案の北方領土問題は先送りする内容だ。

 中国の習近平(シーチンピン)国家主席や韓国首相らの居並ぶ公開の席上で、安倍首相に投げかけた。これに苦笑いだけで応じた首相の姿が露呈したのは、日ロ間の考え方の根本的なすれ違いである。

 平和条約は戦後の両国間の最大の課題であり、その実現は望ましい。ただ、その締結には、北方四島の帰属の問題解決が伴うことを両国の歴代首脳が繰り返し確認してきた。プーチン氏の提案は、その原則を真っ向から否定している。

 一般に「平和条約」は、戦争当事国が平和の回復を宣言し、賠償金などの条件を定め、領土を画定することが主な内容となる。大戦後の日ロの場合、領土以外は1956年の日ソ共同宣言で解決済みだ。

 このとき条約を結べなかったのは北方領土問題が残されたからだった。その解決が盛り込まれないような「平和条約」には意味がないと、日本政府は一貫して主張してきた。

 過去22回にのぼる安倍氏とプーチン氏との会談も、その前提だったはずだ。今週も、交渉の着実な進展を強調していた安倍氏の説明は何だったのか。現状認識の甘さが浮き上がる。

 菅官房長官は従来の方針を変えない考えを示しているが、プーチン氏が口にした提案は、ロシア政府内では極めて重い意味を持つ。今後の交渉に影を落としかねず、日本側は発想の転換を迫られるかもしれない。

 安倍政権が打ち出した北方四島での共同経済活動は、合意から2年たっても進展せず、問題の解決につながる保証もない。その停滞の中でのプーチン氏の提案は、「自分の任期中に」と焦る安倍氏の前のめり姿勢が逆手にとられたともいえる。

 日本政府は「年内」という時間枠にとらわれず、腰を落ち着けて対ロ政策を熟考すべきだ。日本の近隣外交全体を俯瞰(ふかん)し、揺らぐ国際秩序の安定にも資する日本なりのロシアとの向きあい方が求められている。

 安倍氏はしばしば外国首脳との個人的な関係を実績として強調してきたが、今回の気まずい事例から教訓を学ぶべきだ。ゴルフを重ねてきたトランプ米大統領にしても、貿易問題の発言は厳しさを増している。

 社交と外交は違うという当然の現実を忘れてはならない。

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