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 「飲みニケーション」という言葉があります。職場の上司や同僚らと仕事帰りに「ちょっと一杯」。お酒を酌み交わして本音で語り合うことは、仕事を円滑に進めるために必要だという考え方もあれば、働き方改革が叫ばれている時代にそぐわないという意見もあります。みなさんは、どうでしょうか。職場の飲み会、好きですか?

 ■酒の力、潤滑油か迷惑か

 朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

     ◇

 ●「若い男性だからセクハラまがいな発言も大丈夫だろうとなめられたのか、さんざんなことを言われて愛想笑いでなんとか拳をこらえた飲み会。若い世代には偉そうにコミュニケーション能力なんて語りながら、中高年社員たち自身は酒に逃げないとコミュニケーションが取れない『飲みニケーション』。情けないです」(IT、ベンチャー 京都府・20代男性)

 ●「子供ができる前は当たり前に参加していたが、たぶん子供が独立するまで夜の参加はありえないし、それで不都合があるとしてもしょうがない。ただ、主人は同じ子供をもちながら新年、忘年会、全て当たり前、その中で子供の話もしているようで、会社の飲み会って何なのだろうとモヤモヤする」(サービス業 兵庫県・40代女性)

 ●「職場の飲み会は、相互理解を目的とする強制参加の有料研修だと受け止めています。言いたいことも言えず、帰宅後の家事時間が削られるので嫌いです。そうはいっても一定の必要性は認めます。ただし非正規雇用で給与の低い身としては、飲み会代は経費でおとしてもらいたい」(メディア 東京都・40代女性)

 ●「出欠は自由とされているが、原則参加しなければならないような雰囲気がある。役員や上席の座る位置を決めた上で、その隣に女性社員が配置され、料理のとりわけなどを自然と女性がやらざるを得ない。二次会のカラオケも必須で、経済的・精神的の両面から飲み会は憂鬱(ゆううつ)だ」(製造業 群馬県・40代女性)

 ●「若い時、人と付き合う基本を教えてもらったように感じます。逆に絡まれて嫌なこともありましたが、しらふで絡まれることを思えば、そこに『赦(ゆる)し』が介在するのが飲み会なのだなと思います。今、管理職として、なるべく積極的に部下を誘い、飲むことが多いですが、自分がされて嫌だった一方的な押し付けを避け、なるべく自由に話す場を創出するよう努めています」(官公庁、諸団体 大阪府・40代男性)

 ●「まったく違う部署の先輩方にも飲み会の際に声をかけてもらえるようになり、社内の交友関係が広がったことで仕事がスムーズに進むこともある。嫌だった経験は、飲み会で相談したプライベートな内容を社内に広められたこと」(医療・福祉関係 京都府・20代女性)

 ●「超氷河期時代にアルバイトとして現在の会社に入りました。長く働きたいと、独学で専門知識を学び、仕事も社員並みにこなしました。しかし、5年間『社員にすることは難しい』と言われ続けました。ある日、職場の飲み会に会社の幹部が同席するようになり、何度目かの飲み会で、私の働き方や待遇も話題に上りました。すると数日後には、社員雇用の話がトントン拍子で進められ、晴れて正社員となりました」(製造業 東京都・40代女性)

 ●「お酒が体質的に飲めません。職場の飲み会は愚痴大会になりがちで、しらふの人は全く面白くありません。また、飲める人が飲めない人を連れていって割り勘とすることで、自分たちの飲み代を立て替えて支払ってもらっているようにすら感じます」(金融・保険、商社 東京都・40代男性)

 ■雇用も意識も変化、開くなら配慮を 中原淳・立教大学教授(人材開発)

 一度入社したら定年まで勤めることを意味していた伝統的な日本企業の雇用形態においては、職場のメンバー同士が、家族のように密接に付き合うものとされました。そこにいたのは、日本人で、男性で、正社員の人ばかり。彼らの結束を高めるために一番簡単なチームビルディングの方法が、「飲み会」だったのでしょう。性別役割分業が徹底され、長時間労働を受け入れた日本人男性の働き方と密接に関係していました。

 でも、1980~90年代以降、職種や労働時間などを限定して採用する雇用形態が登場し、派遣や非正規雇用の人、共働き世帯や外国人も増えた。皆が夜、同じ時間に飲むことには無理が出てきました。

 若い世代の意識も変わりました。社会の不確実性が上がり、一度組織に入れば給料が上がり続ける時代ではないからこそ、彼らは「なぜこの仕事をするのか」「自分は何を目指すべきか」という意味や目標を把握し、自分が今どの方向を向いているのかを誰かに教えて欲しいと、切実に考えています。

 「取りあえず飲んでいればどうにかなる」と考えるのは、思考停止でしょう。上司と部下が定期的に一対一で対話する「1ON1ミーティング」や、朝・夕に集まって課題や目標を確認する会を開く企業もあります。飲み会を開くならば、子育てや介護中の人への配慮が必要です。今の日本企業にとって一番の課題は、人材と人手不足。誰かを排除したり疎外感を感じさせたりするマネジメントは、厳しいと思います。(聞き手・丸山ひかり)

 ■飲食費補助/社内開催もOK

 社員同士の交流を促し、飲み会をサポートする会社もあります。

 日立ソリューションズ(東京)は「本部長と課長」「部長とヒラ社員」のように、普段は直接やりとりする機会が少ない社員同士が交流する懇談会に、1人3500円までの飲食代を補助しています。

 その名も「段々飛び懇談会」。2007年に始めました。開催は必ず正式な会議のあと。若手が発言しやすいよう、直接上下関係がある社員の同席は禁止です。懇談会で上役が聞いた意見や相談はメモにして会社に報告し、業務改善に役立てます。

 昨年度の補助額は約3千万円かかりましたが、福利厚生担当の領木哲生(てつお)さんは、費用以上に効果が出ているとみています。2年ほど前からはランチ時の申請が増えました。出産や育児中の社員は終業後の参加は難しいためです。領木さんは「話しやすい雰囲気でコミュニケーションできるのであれば、アルコールの有無は関係ありません」。

 04年設立のIT企業「ChatWork」(大阪)は一昨年まで毎月1回、東京と大阪のオフィスごとに家族も参加できる飲み会を開いてきました。山本正喜社長(37)は「創業期は様々な壁にぶちあたる。チームワークを高め、夢を語り合ってマインドを共有するために意図的に多くしていました」。1人4千円を上限に社が費用を補助。任意参加ながら、多くの社員が参加していたそうです。

 しかし会社が成長し社員が増えるにつれて幹事の負担も大きくなったため、いまは全体の飲み会と部署ごとの飲み会を、それぞれ3カ月に1回開いています。部署ごとの飲み会の参加率はほぼ100%。さらにオフィスのカフェスペースで社員が自発的な飲み会を頻繁に催すようになり、その費用も月に1回を上限に補助し始めました。

 「上下関係を気にせず、友達との飲み会のように話せる雰囲気がある。楽しいから、増えたのです」と山本社長。「いつも心にユーモアを」といった指針が共有されているのも一因といいます。「愚痴を言い合うような飲み会にはなりません」(金本有加、丸山ひかり)

 ■1次会だけで10時まで 伊藤忠商事・岡藤正広会長

 「110運動」は2014年に始めました。お酒を飲み過ぎると人が変わったり、ものを無くしたり、トラブルが起きます。だから、2次会はやめて、「(飲み会は)1次会だけで夜10時まで」というルールをつくったのです。これならそんなに酔わないし、だらだら飲み続けることにはなりません。

 昔、仕事帰りに上司と居酒屋に行き、そこで聞いた苦労話は自分のためになった。部下が上司に、言いにくいことを打ち明けられる場にもなります。会社内の施設では、お酒が無料で飲める時間も設けています。

 そのかわり、110運動は甘い解釈を許さず、厳しくしています。(早朝勤務をすすめて夜の残業を禁止する)朝型勤務などと同じ、働き方改革のひとつです。社員の幸せを無視してはいけません。

 考え方は取引先との飲み会にも広がっています。取引先から「10時までですよね」と喜ばれることもあります。今は飲んで商売をする時代じゃない。飲まなきゃ出来ないような商売は、たいした商売ではありません。(聞き手・金本有加)

 ◇次回30日は「カイシャの飲み会:2」を掲載します。

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