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 対立や差別を乗り越え、寛容な社会を実現するにはどうすればいいのか。24日に東京都内であった「朝日地球会議2018」では、国際情勢や建築、デジタルメディアの専門家らが、変化が激しい世界をどう捉え、考えていけばいいのかを議論した。会議は26日まで。

 ■宗派・民族の対立増、秩序見えにくく 「中東はどこに向かうのか――紛争、イスラム、国際秩序」 ネイサン・J・ブラウンさん、池内恵さん

 2010年からの「アラブの春」による民主化が頓挫し、テロや紛争、弾圧が止まらない中東――。米国の影響力が弱まり、サウジアラビアやイランといった地域大国が対立するなど混迷を深めるなか、どこへ向かおうとしているのか。

 米ジョージ・ワシントン大のネイサン・J・ブラウン教授は、グローバルなレベルでは20世紀半ば以降、英国、その後に米国と旧ソ連などが覇権を握ってきたが、03年に米国がイラクに侵攻してからは、大国を中心に動いていた体制が崩壊したと説明。「米国が中東で手を広げすぎた。オバマ前政権とトランプ政権はいろいろ違いがあるが、共通しているのは、米国が中東を以前のようにまとめ上げられない事態に対応しなければいけなかったことだ」と分析した。

 この間、トルコやイラン、サウジなどが積極的な外交攻勢を展開し、対立と協力の合従連衡を繰り広げた。イスラムや国家といったイデオロギーをめぐる論争から、より身近な宗派や民族の違いによる対立が大きくなったという。「地域や国ごとに様々な力が台頭し、流動的な動きが続く。イスラム国(IS)のような集団が今後も散発的に台頭する」との見方を示した。

 東京大先端科学技術研究センターの池内恵准教授は、日本と中東の関係の転機として、15年1月に表面化したシリアでの日本人拘束事件を挙げ、「日本ではISが国際問題から国内問題になった」と述べた。「ISの理念はおそらく今も生きている」とする一方、領域支配がほぼ消滅したことで、中東で「ISという共通の何かがなくなることで、秩序が見えにくくなっている」と説明した。

 ブラウンさんが中東と日本の政策の関わりを尋ねると、池内さんは、中東難民が選挙の争点になっている欧州と比べて「まだ遠い世界だ」と指摘。ただ、日本で今後、アジアからのイスラム教徒の移民受け入れが進めば、中東問題で「欧州が何をしたのか、どこが失敗だったのかを、15年後くらいには議論しているのではないか」と語った。

 コーディネーターを務めた国末憲人・朝日新聞GLOBE編集長は「米国の動きは中東にかなり左右されているなど、いろんな形でつながっている時代。見えないところをどう結びつけるか、私たちの想像力にかかっている」と強調した。

 会場からは、イランへの経済制裁を再開した米国について「イランを追い詰めて何を得ようとしているのか」との質問が出た。ブラウンさんは「米国内はイランを中東地域に組み込むか、隔離するかの議論に終始している」と指摘。隔離政策に動いたトランプ政権に対し、「国連安全保障理事会は懐疑的な一方、イスラエルやサウジは同調しつつある」とも述べた。

 また、「失われた世界秩序をどうやったら取り戻すことができるか」という問いもあった。池内さんは「一つの枠組みで世界を見ることが難しくなっていく時代」との認識を示した上で、「あたかも衝突によって世界が終わるというような危機感は考えすぎ、杞憂(きゆう)と思う」と答えた。

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 <ネイサン・J・ブラウンさん> ジョージ・ワシントン大学教授 1958年生まれ。立憲主義、法の支配、アラブ世界の民主主義が専門。カーネギー国際平和財団シニア・アソシエートも務める。

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 <池内恵さん> 東京大学先端科学技術研究センター准教授 1973年生まれ。専門はイスラム政治思想。著書に「シーア派とスンニ派」「イスラーム国の衝撃」など多数。

 ■土地に根付く、日本の技術を 「寛容な建築」 隈研吾さん

 新国立競技場を手がけ、世界で活躍する建築家隈研吾さんが、自身の建築の変遷を振り返り、これからの社会に求められる「寛容な建築」とは何か考察した。

 現在、約30の国や地域で300ものプロジェクトに携わる。原点は大学院時代にアフリカのサハラ砂漠で集落調査をした経験だ。草原に並ぶ日干しれんがにかやぶき屋根の小屋が、その土地に根付いた建築を表現しているように見え、「これからの(建築の)未来があると感じた」という。

 1991年に、東京都内に巨大なギリシャ神殿風の柱と崩れかけた建物が合体した異形の建築「M2」を設計。「その時代の日本が持つカオスを表現したい」という意図だったが、評判は芳しくなかったという。

 そうした中で、林業が盛んな高知県梼原(ゆすはら)町の建造物の保存運動に関わり、隈さんを代表する木の素材と向き合うようになった。建築中の新国立競技場も神宮の森に溶け込むように意識して設計した。「昔から一番安く出回っている経済的な木を使った。日本の土着的な技術で、その知恵をアピールできる」と話す。

 これからの日本社会に溶け込む建築については、自身が暮らす東京・神楽坂を例に「小さいけど、しゃれている。そういうものが東京の魅力になっていく。そういう場所をつくる都市計画をすべきだ」と指摘。「土着的なやり方が日本に合っている。小さくても寛容さのあるプロジェクトは寛容な建築になる」と話した。

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 <隈研吾さん> 建築家 1954年生まれ。主な国内作品に、森舞台や根津美術館など。国内外から受賞多数。2009年から東京大学教授を務める。

 ■無駄や負け、世に出さないと 「失敗を語ること」 お笑い芸人、髭男爵・山田ルイ53世さん

 中学2年生から約6年間ひきこもり生活をおくっていたというお笑いコンビ・髭(ひげ)男爵の山田ルイ53世さん。「失敗を語ること」と題した対談で、ひきこもった経験を「無駄だった」と断言した。

 「よく『ひきこもりがあったから今の人生があるんでしょう』と言われるが、自分としては完全に無駄だった。無駄を無駄と言わせてくれない風潮が、いろんな人をしんどくさせているのでは」と、「失敗を語る」寛容性を訴えた。

 山田さんはひきこもり生活の後、進学や極貧生活を経て、お笑い芸人として「ルネッサ~ンス!」というギャグで大ブレーク。「一発屋」と呼ばれながら、今は文筆活動も行う。自らと同じ一発屋芸人たちの「その後」を取材した著書を今年出版した。

 「彼らは人生負けなのか勝ちなのかよくわからない。今はサクセス(成功)ストーリーが世にあふれ、『成功しないと人生は負け』という風潮がある。もっと失敗とか負けの話も世に出さないとおかしなことになる」と話した。

 会場からは「順調な人生を歩む同級生と自分を比較してしまう」との悩みも。山田さんは「人は何でもできるわけじゃない。もっと自分をあきらめてあげて。その上で、人のことより目の前のことに集中して」とアドバイスしていた。

 (18面に続く)

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