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 欧米でポピュリズムが台頭し、危機に瀕(ひん)する民主主義の課題は何なのか。グローバル化と人口減に直面する日本で、必要な女性のリーダーシップとは。「朝日地球会議2018」(朝日新聞社主催)の2日目は、国内外の第一線で活躍する人々が議論した。

 ■「台頭するポピュリズム、危機に瀕する民主主義」 パスカル・ペリノーさん、ヤン=ヴェルナー・ミュラーさん、コリン・ウッダードさん、佐藤優さん

 コーディネーター=西村陽一・朝日新聞社常務取締役〈東京本社代表・コンテンツ統括・編集担当〉 ポピュリズム勢力の伸長やトランプ米政権の挑戦を受け、民主主義や政党政治が弱体化し、危機にある。民主主義を支える大切な規範の「寛容」や「多様性」が揺さぶられ、我々を分断する「壁」が各地で築かれつつある。この現状について議論したい。

 パリ政治学院教授のパスカル・ペリノーさん ポピュリズムの特徴には、弱い者による強い者への抗議がある。その形は多様で、国家の団結を訴えたり、解体を訴えたりする。だから、欧州議会で各グループは連携できない。台頭の理由は、グローバル化への政治的、経済的な不安がある。外国人や移民を嫌い、場合によっては排斥する。若者らが権威主義を求めるのを懸念している。

 プリンストン大学教授のヤン=ヴェルナー・ミュラーさん ポピュリズムを特徴づけるのは反多元主義だ。ポピュリストは反対派の正統性を否定する。裁判所やメディアの批判に、「我々は選ばれた唯一の人々の代表だ」と反撃する。トランプ米大統領は白人労働者の草の根運動の候補者ではなく、確立された共和党の候補者。支持者が自党の候補者に投票した。

 ジャーナリストのコリン・ウッダードさん 米国が分断しているのはなぜか。歴史をひもとく必要がある。欧州からの入植当時、地域ごとに異なる政治モデルが構築された。個人の自由を犠牲にしても共同体の価値を重んじる共同体主義と、個人の自由を尊重する個人主義。自由の定義が現在の対立につながっている。この対立こそが、トランプ政権を誕生させた。

 ペリノーさん フランスでは、政党や組合など「中間団体」と呼ばれて草の根社会と政治制度の仲介をしてきた組織が危機にある。ある世論調査では、回答者の92%が「いかなる政党も信頼しない」と答えた。そうした市民と政治の間の空白にポピュリストたちが進出している。開かれた社会の支持者と、閉ざされた社会を好む人々という、新しい対立構図がある。

 作家の佐藤優さん 日本のポピュリズムといえば小泉純一郎政権。当時、私が(外務省の背任事件で)東京地検特捜部によって逮捕されたのは、ポピュリズムによってだと思っている。良かった面もある。私たちは当時、密室外交だと批判されたが、事件後に日本外交は変わり、交渉内容を開示するようになった。

 西村 欧州各地で移民流入に反発する政党が力を持つ背景は何か。

 ミュラーさん 根底にあるのは文化の衝突だ。真の国民と排除すべき国民の対立が国内にあれば、ポピュリズムの余地がある。ただし、民主主義はこうした分断には脅かされない。民主主義はコンセンサスに基づき、きちんとした形で分断に対応するためにある。

 ウッダードさん 文化の衝突があっても、健全な民主主義が機能すれば分断はしない。だが、それが崩壊するとポピュリズムが台頭する。まさに米国の例だ。

 西村 トランプ現象は一過性のものでしょうか、構造的なものでしょうか。

 ウッダードさん 「トランプ2・0」の誕生はまさに悪夢です。トランプ氏自身が規律がないということが、FBIの捜査のきっかけになり、逆にチェック機能を生んだ。トランプ氏がより賢くなって生まれ変わると、チェック機能がなくなってしまう。

 佐藤さん トランプ氏が権力を握れたのは、混乱の原因ではなく結果。帝国主義的な国がお互いの要求を言いたいだけ言って、そのときの力関係で均衡点が決まってくるという、嫌な時代になってくると思う。

 ペリノーさん 戦後作り上げた民主主義を作り直さなければいけないかもしれない。今までの代議制民主主義の再生だけではだめだ。政党とか議会とかと参加型の民主主義をうまく結びつけないといけない。

 ミュラーさん 代議制民主主義自体は危機ではない。本当の危機は、市民とつなぐ仕組みがないことだ。実験的な試みが始まっている。私自身は懐疑的だが、例えばイタリアの「五つ星運動」。誰でもその運動に参加できる。

 佐藤さん ペリノーさんの話のなかに、ヒントがある。それは中間団体の強化だ。日本では沖縄。独自の文化が結びついて、中間団体的になっている。個人でもなければ、国家でもない。中間団体が強くならないと、国家権力の情報操作や巨大なマネーの力には勝てない。

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 <パスカル・ペリノーさん> パリ政治学院教授 1950年生まれ。専門は選挙社会学、右翼分析。仏の右翼政党「国民戦線」(現「国民連合」)研究の第一人者。パリ政治学院政治研究所長を長年務めた。

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 <ヤン=ヴェルナー・ミュラーさん> プリンストン大学教授 1970年生まれ。専門は政治理論、現代政治思想史、欧州政治社会。近著「ポピュリズムとは何か」は、20カ国語以上に翻訳されている。

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 <コリン・ウッダードさん> 歴史家・ジャーナリスト 1968年生まれ。2011年に出版されて大きな反響を呼んだ著書が17年、「11の国のアメリカ史 分断と相克の400年」として邦訳された。

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 <佐藤優さん> 作家・元外務省主任分析官 1960年生まれ。同志社大学神学部客員教授。著書に「希望の資本論」(池上彰氏と共著)「悪の正体」「使える地政学」など多数。

 (20面に続く)

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