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 ■Vol.1 東京女子大×朝日新聞

 朝日新聞社が15大学と協力して展開する大型教育シンポジウム「朝日教育会議2018」がスタートした。トップバッターは2018年に創立100周年を迎えた東京女子大学。「しなやかな視点で地域の魅力を再発見」をテーマに、新たな価値を発信しつづける地域、多くの人が訪れる魅力ある地域のポイントを探り、地域が持つ課題の解決策を議論した。

 【東京都千代田区のイイノホールで9月1日に開催】

 ■基調講演 奈良で映画祭、住む人の日常豊かに 映画作家・河瀬直美さん

 奈良で暮らし、奈良で映画を撮っています。

 私が初めて「これが自分の作品」と思えた作品は、23歳で撮った8ミリ映画でした。私は父親を知らずに育ち、存在さえ知りませんでした。母親も遠くで暮らしており、奈良で私を育ててくれたのが大叔母でした。

 「自分はどうしてここにいるのか」

 思春期から抱き続けてきた問いを自らに投げかけて映像化したのがその映画です。映画をつくることで初めて自分を肯定できました。

 映画には、地域を元気にする力があります。奈良を舞台に認知症の人との交流を描いた作品「殯の森」がカンヌ国際映画祭でグランプリを取った時、授賞式で浴びたライトの先に、奈良が見えました。「奈良でちゃんと腰を据えて生きよう」。そう思いました。

 同時に「奈良で映画祭をしたい」とも思いました。古都・奈良の持つ特徴、歴史、文化にフォーカスして宝物を見つけたい。世界から注目を浴びた今なら地域の人に働きかけられるのではないか。そう考えてNPO法人を作り、「なら国際映画祭」を始めました。

 映画祭は隔年開催。というのは、映画祭でグランプリを取った監督に、翌年は奈良を舞台に映画を撮ってもらうんです。

 中国、メキシコ、キューバ、韓国、イラン……。多彩な監督が県内で撮影しました。例えば韓国人監督が五條市で撮った作品は韓国で大ヒットし、観光客がロケ地・五條に殺到。驚いた行政側が急きょ、ロケ地めぐりマップを作ったほどでした。

 キューバ人監督が挑んだのは、俳優の藤竜也さんがニホンオオカミのハンターに扮した作品。東吉野村という山間部の地域で、藤さんと監督は1カ月間合宿生活を送りました。初めは驚くだけだった村の人たちも、コンビニでご飯を買う藤さんを見ているうち、それが「日常」になっていきました。映画祭は、文化を知り、歴史を伝え、地域に住む人の日常を豊かにしてくれるのです。

 両親を知らずに生まれ落ちた私を育ててくれた養父母が、生きる希望を私に与え、この世界の美しさを教えてくれました。この街を活性化するために私自身は映画を撮り続け、映画祭を百年、千年と続くものにしたい。奈良に1千年以上存在する東大寺のように。命ある限り後世の人間に豊かさを伝えていきたい。そう思っています。

     *

 かわせ・なおみ 映画作家。生まれ育った奈良で映画をつくり続ける。カンヌ国際映画祭をはじめ、各国の映画祭での受賞多数。代表作は「萌の朱雀」「殯の森」「あん」「光」。2年に1度開催する「なら国際映画祭」では後進の育成にも力を入れている。11月23日より、パリ・ポンピドゥー・センターにて河瀬直美展が開催される。

 ■ケーススタディー 伝統や方言の活用、郷土愛・洞察力がポイント

 基調講演に続いて、地域における取り組み事例などを紹介する「ケーススタディー」を実施した。経営者や専門家が、地域の魅力づくりのポイントを探った。

 徹底した地元志向・伝統志向で注目を集める日本酒メーカーがある。秋田市の「新政酒造」。生産効率を上げる日本酒製造法を見直し、伝統的な木おけを使ったり、地元の田で無農薬栽培をしたりしている。その様子を見ようと、蔵を訪ねる国内外の客が絶えない。会議では8代目社長の佐藤祐輔さんが登壇。「土地の原料を使い土地で最終加工すれば、土地固有の酒ができる。それが売りになる。コストダウンにこだわらず伝統技術を可能な限り再現することにこだわりたい」と語った。

 首都圏のIT企業誘致に成功し地域への転入超過を実現したのが徳島県神山町。活動場所を選ばない企業の誘致、仕事を持った移住者の誘致、職業訓練などによる後継人材や起業者の育成を続ける。事例を紹介した元京都府副知事の佐村知子さんは「地域の魅力は人間同士が交流することで作られ、醸し出されるのではないか」と指摘した。

 「方言」を活かした地域PR法を紹介したのが、方言研究が専門の東京女子大学現代教養学部・篠崎晃一教授。篠崎さんによると、ターミナル駅や空港といった地域の玄関口で、「ようこそ〇〇へ」が方言で書かれることが増えた。「おこしやす京都」「めんそーれ沖縄」など。交通系ICカードでも、関西圏の「ICOCA」(イコカ)、九州圏の「SUGOCA」(すごか)といった方言由来の命名が浸透してきた。

 そして方言は今や全国区。

 「おめがだ(きみたち)最高だやっ!」

 第100回全国高校野球選手権記念大会で準優勝した秋田代表・金足農業球児の健闘をたたえた地元の言葉だ。この夏、方言がSNSで拡散した。「身近な方言を強力な地域ブランドととらえて積極的に活用して欲しい」と篠崎さんは話した。

 観光産業に活路を求めている地域が、現実的には多い。実際、海外からの訪日者数は毎年過去最高を更新し2018年には3千万人を超える勢いだ。JTB総合研究所主席研究員の山下真輝さんは「定住人口が増えにくい中、外から地域を訪れる『交流人口』を増やす考えは正しい」と説明。「観光による消費額増加を目指せば地域の雇用創出につながり、ひいては定住人口の増加、持続的な地域社会につながる」と解説した。

 ポイントは「模倣だけではダメ」ということ。「それぞれの地域が特徴を生かして欲しい。郷土愛と洞察力、実践力を備えた人間力が地域資源につながる」と山下さんはまとめた。

 ■パネルディスカッション

 基調講演・ケーススタディーに続き、パネルディスカッションが行われた。先に登壇した佐藤祐輔さん、佐村知子さん、山下真輝さんに、東京女子大学現代教養学部長の原田範行さんが加わり、地域創生のあり方を探った(進行は井原圭子・朝日新聞社教育コーディネーター)。

     ◇     

 ――第3部から登場の原田先生から、まず問題提起を。

 原田 女子大学として、まずは「地域と女性」という視点から考えたい。学生を含む若い女性が、地方を離れて東京に来ている。わが大学としては、地方から受験生が集まるのはうれしいこと。その上で、若い女性が東京で暮らした後、地域でどんな働き方を実現していけば良いか。そのきっかけをどうつくるか。女子大学にとって重要なテーマだ。

 ――女性活躍やキャリアアップの場を地方でどうつくるかという問題。佐村さんの考えは。

 佐村 「女性活躍が地域創生のカギ」なのは間違いない。しかし簡単な方策はないと感じる。地域に対しては「頭を押さえられている」という感覚があるのではないか。大学進学率の男女差も、都道府県で違いがある。企業における女性のリーダーシップモデルはあるが、地域リーダーのモデルが見えていない。モデルになるような人を地域で発掘し応援して欲しい。また、家族を持ちやすくて出世もできる企業が地方に出来ればいい。

 原田 いまどきの女子大学生は非常に積極的だ。日常生活のリーダーシップ発揮から海外留学、起業。実を結ぶかどうかは先の話として、佐村さんがいうような女性を育てることも女子大学の意義かもしれない。

 ――「地方と企業」という言葉が出た。経営者としてどう地域と関わるか、佐藤さんに聞きたい。

 佐藤 単に「ビジネスをやりたい」というだけでは地方の人はついて来ない。私自身も「酒造りしたい」という純粋な思いでやっていて、街おこしのためやっているわけではない。秋田の自然を反映した日本酒ができ、それが結果的に街おこしになればいい。

 原田 日本酒は海外で大変な人気で、私が専門としているイギリスでも日本酒は人気だ。海外の顧客を意識しているか。

 佐藤 伝統製法なので生産量は限られる。積極的に海外に出していない。そのかわり海外からお客さんがわざわざ来てくれる。

 私は、伝統産業も国際的に力を発揮できると思っている。例えば、私の好物の生ハムはイタリアのとある小さな市の名産。その市の人口は秋田市の3分の2の19万人なのに、生ハムの売上額は2400億円。日本酒の出荷額を全国で足しても4千億円ぐらいなのに、小さな市1カ所で生ハムをそれだけ売り上げている。さらにこの市では、おいしいチーズやバルサミコ酢も特産品として出荷している。すべて伝統産業だ。日本も奮起していける。

 ――今度は地域と「世界」の視点で話したい。日本への旅行客が急増する中で、地域で問題が起きている。旅行業界で様々な実例を見る山下さんの意見を。

 山下 地域への海外客の増加には良い面と悪い面がある。前者では、日本の伝統工芸品が外国人の生活も豊かにできると分かった。例えば東北地方の南部鉄器が中国人に売れている。日常的にお茶を楽しむ彼らにとって「この鉄器でいれればおいしく飲め、湯も冷めない」との評価が広がっている。一方、一部には外国人旅行者に拒否反応を示す人がいるのも事実。京都などでは駅で荷物を預ける場所が足りず、路線バスが荷物であふれている。

 ――外国人を多く受け入れていこうという流れがある中、地域にとってより良い方向性を、京都府副知事の経験がある佐村さんに聞きたい。

 佐村 「京都」と聞いた時に思い浮かべるのは、ほとんど京都市内の観光名所ではないか。しかし、府の南部には大阪のベッドタウンがあり、府の北部は高齢化率の高い地域。地域の悩みは違うがそれぞれ特色がある。それは逆に、知られていない観光資源がまだあるということ。北に海、真ん中に森林、南に茶畑。各地域の多様な魅力を生かして、京都府全体で観光客を受け止められるように取り組んでいる。

 山下 観光でもうけるというだけの発想ではなく、どんな目的で観光をやっていくのか地域の側もしっかり議論する必要はあると思う。通常の利害関係ではなく、一つの目的を持ったプロジェクトが動き出せば思わぬ化学反応が起こり活性化につながる。地方はもっと自信をもってほしい。世界が評価している。

 ――これまでの話を、東京女子大学として教育にどう生かすか。

 原田 「地域の創生」は、いわゆる場所としての「地域」を再生させることだけではないと感じた。今まで気づかなかった新しい価値を創造し、私たちの本来のアイデンティティーを探り確立することなのかもしれない。学びのための実践が地域の底に宿っていると強く感じた。そういう点を意識して、これから学生を育てていきたい。

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 さとう・ゆうすけ 新政酒造社長 1974年、秋田市生まれ。東大文学部卒。フリーライターなどとして活躍した後、2007年に新政酒造入社。12年から社長。

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 さむら・ともこ 元京都府副知事 1955年、長崎県生まれ。東大卒。80年に郵政省入省。2002年、京都府副知事。その後内閣府男女共同参画局長、内閣官房地方創生総括官補を歴任。

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 やました・まさき JTB総合研究所主席研究員 1969年、北九州市生まれ。93年、JTB入社。国の観光政策の各種委員や、地方創生・観光人材育成の講師なども多数務める。

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 はらだ・のりゆき 東京女子大学現代教養学部長 1988年、慶応大卒。94年、同大学文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。2009年より東京女子大学教授。専門は英文学・日英比較文化研究。

 <東京女子大学> 1918年創立で、今年100周年を迎えた。現代教養学部の中に、人文学科、国際社会学科、心理・コミュニケーション学科、数理科学科、国際英語学科がある。文理の枠にとらわれないリベラルアーツ教育を進め、「専門性を持つ教養人の育成」を目指す。海外留学を必須とするなど、国際教育にも力を入れている。

 ■朝日教育会議

 国内外で直面する社会的課題への解決策を模索して広く発信することを目指し、15大学と朝日新聞社が協力して開催するシンポジウムです。

 共催大学は次の通りです。

 青山学院大学、神奈川大学、神田外語大学、関東学院大学、京都精華大学、聖路加国際大学、拓殖大学、中央大学、東京工芸大学、東京女子大学、二松学舎大学、法政大学、明治大学、明治学院大学、早稲田大学(50音順)

 12月まで、1大学1会議で開催。各会議の概要と申し込みは特設サイト(http://manabu.asahi.com/aef2018/別ウインドウで開きます)から。

 各会議の模様は今後、新聞本紙などでも随時掲載していきます。