国際社会がいかに厳しいまなざしを向けているか。日本政府は直言するべきだ。そのうえで人道危機を打開するために、ともに知恵を絞っていきたい。
ミャンマーの国家顧問兼外相であるアウンサンスーチー氏が来日し、9日に東南アジアのメコン川流域5カ国のトップを集めた日メコン首脳会議に出席する。安倍首相との会談や夕食会も予定されている。
かつて民主化運動を率い、ノーベル平和賞を受けたスーチー氏だが、いま大きな批判にさらされている。
ミャンマーに住む少数派のイスラム教徒ロヒンギャのうち、70万人以上が迫害のため隣国バングラデシュに逃れた問題で、責任を問われているのだ。
国連人権理事会がつくった調査団は、ミャンマー国軍がロヒンギャに広範で組織的な弾圧を行ったとの報告書をまとめた。
ミャンマーは民主化の途上にあり、治安については依然として国軍が大きな影響力をもっている。とはいえ、スーチー氏は政権の事実上のトップである。
報告書は、「その地位を、状況悪化を食い止めるために使わなかった」と指弾した。重く受け止めるべきだ。
人権理事会は先月末、この報告書に基づき非難決議を採択した。特定の民族や宗教に属する集団を殺害する「ジェノサイド」の疑いにすら言及した。
日本は決議を棄権した。批判よりも支援を通じて改善を図る考えだとしている。日本は、問題の解決をめざす外交努力を惜しんではならない。
多数を占める仏教徒のビルマ族は、ロヒンギャへの不信感が根強い。自分たちの代表と認めるスーチー氏が世界で孤立すれば、反発は少数派に向かい、両者の溝が深まりかねない。
喫緊の課題である、ロヒンギャ難民の早期の帰還と再定住を妨げる恐れがある。
それを避けるためにも、人権侵害をめぐる懸念に耳を傾け、国軍とも毅然(きぜん)と向き合うようスーチー氏に促すべきだ。
大切なのは、軍の責任を明らかにすることだ。それが、帰還に二の足を踏む難民の不安と不信を解くことにつながる。
その意味で、ミャンマー政府が設置した、軍から独立した調査委員会の役割は重要だ。その4人の委員の1人に日本の元外交官が選ばれた。客観的で説得力ある調査が求められる。
日本は、軍政、スーチー氏の双方と関係を築いてきた。その資産を生かし、民族共存の土台づくりに貢献する。それは国際社会に対する責務でもある。
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