[PR]

 中長期的な視点から専門家が議論して、税のあるべき姿を提言する。それが、首相の諮問機関である政府税制調査会の役割のはずだ。ところがいま、政府税調はこの役割を放棄してしまったように見える。

 今年は、老後の資産形成の支援や、働き方によって不利が生まれないしくみづくりなど、所得税や資産課税について時間をかけて議論するという。性別や働き方、家族構成などで不公平がなく、安心して老後を迎えられるよう、個別の税目を見直すことはもちろん大切だ。

 しかし最も求められていることは、高齢化でふくらむ社会保障費をこれからはどの程度、どんな税で支えるべきなのか、全体像を示すことではないか。

 ところが、来年6月に2期目の任期を終える現在の政府税調に、こうした考えはないようだ。中里実会長(東大教授)は「無理に方向性を示すことはしない」と言う。

 同じ顔ぶれの委員が1期目の任期末を迎えた2年前、政府税調は所得税の抜本改革の議論を進めながら、中期答申の策定を見送った。「国民の価値観にかかわることについて、こうすべきだとそう簡単に言えない」との理由だった。

 働き方や世帯の姿の変化も踏まえ、子どもを育てる若い世代や所得の低い人たちの税金は軽くし、暮らしに余裕がある層により負担を求める方向で、前年には論点を整理していた。中期答申に向けてさらに検討を深める、と明記しながら見送ったのは、直後にあった参院選への配慮とみられても仕方なかった。

 かつての政府税調は中長期的なあるべき姿を答申で示し、政治家が利害調整をしながら毎年度の方針を決める与党税調と役割分担をしていた。政治が避けたがる負担増にも切り込む、ご意見番的な役回りもあった。

 ところが現在、異なる意見に耳を傾けようとしない政権の姿勢が、政府税調の議論にも影を落としているかのようだ。

 安倍首相は「すべての世代が安心できる社会保障制度へと、3年で改革を断行する」と掲げる。ならば、改革後の社会保障を支えられる税制の姿を専門家として示すよう、政府税調に促すべきだ。そして政権が考える税制全体の方向性を、来年の参院選で国民に問うのが筋だ。

 「税こそ民主主義であり、国民の皆様の多様な声を踏まえ、決定する必要がある」。税調委員を再任した2年前、首相はこう語った。政府税調すら萎縮したままでは、多様な声が首相に届くはずもない。

こんなニュースも