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 「同僚から『安直だ』と言われました」――相模原の障害者施設での大量殺人事件から2年を受けた連載「きょうだいたち~やまゆり園事件から2年」(7月19、23、24日朝刊)の執筆陣の1人、山内深紗子記者からそう聞いたとき、私の中で今回のコラムが決まりました。

 山内記者たちはこの記事で、本文とは別に、自分の感慨を述べていました。「生産性」で人を評価するようなところが自分にもなかったかと自身を振り返る、人間的な述懐でした。「記者の言葉が身にしみ」た(50代・女性)、「大変感動致しました。記者の方が揺らぎながら記事を書いているのがよくわかりました」(年代不明・男性)と、読者からも大きな反響を得ましたが、そのような手法で読者の共感を得たことを、社内から「安直だ」と評されたのでした。

 別の社員からは「記者には表現力は重要じゃない」と聞いたことがあります。記者は「ネタ」で勝負する。文章はネタを落とし込むもので、定型文でかまわない。むしろ、記者による違いが出ないように、より客観的・没個性的に書くのが記者の「常識」だ、と。その考え方からすれば、たしかに編集部門幹部でもない一記者が自分を出して書くのは「邪道」に見えそうです。

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 その「常識」は妥当なのか。もう1人、自分を出して、読者の共感を得た永田豊隆記者にも聞きました。永田記者は「妻はサバイバー」(本年1~7月、朝日新聞デジタル及び朝刊大阪府内版など)と題して、ご自身の妻が摂食障害などで苦しんだ経緯を克明に明かしています。「私みたいに苦しむ人を減らしたいから」と執筆に同意した妻の闘病記は壮絶で、「ときおり挟まれる妻のセリフ、様子は生々しく緊迫感に満ちている」(40代・女性)、「まるで身を削るように告白する記事を、毎回胸を突かれる想(おも)いで読ませていただいた」(50代・女性)と大きな反響を得て、デジタルのページビューは100万近くに達した回もありました。

 「記事としての厚みと深みが増したからかも」――永田記者は、大きな反響を得られた理由をそう分析しました。闘病する妻の苦闘と自身の苦悩を綴(つづ)った文章は、記者が第三者だったら到底立ち入れない領域で、自分の家族だからこそあそこまでリアルに書けた、と。だとすると「邪道」ではなく、記事として良質だったから読んでもらえたことになります。しかし永田記者も、同僚からの否定的評価を伝え聞いたことがあるそうです。一部かもしれませんが、どうも新聞社には自分を出すことをよしとしない文化があるようです。

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 朝日新聞が読者とどのようなコミュニケーションをとりたいか――問題はそこに行き着きます。コミュニケーションスキルの一つに「アイメッセージで話そう」があります。アイは英語の一人称のI。「なぜ(君は)これができないのですか」と言われれば、相手は叱責(しっせき)された気持ちになり、ときに反発します。「これをやってくれたら(私は)うれしい」と私(I)を主語にして話したほうが、相手も受け入れやすいのです。

 新聞にはこれまでアイメッセージで語る文化は乏しかった、と思います。「すべきである」という「べき」論か、「問題になりそうだ」という主語をぼやかした言い回しが主流でした。しかし今、それが「上から目線だ」「何様のつもりだ」「そう言うおまえはどうなんだ」と批判を受けやすくなり、朝日新聞はその代表格と目されています。

 批判されたからといって変える必要はありません。また報道内容によっても違って当然で、一律に決められるものでもないでしょう。

 ただ、原発事故に関する記事の取り消しなど、2014年の一連の問題の反省を踏まえて朝日新聞が掲げたキャッチフレーズは「ともに考え、ともにつくるメディアへ」でした。また「課題の解決策をともに探ります」とも謳(うた)っています。一朝一夕に解決する課題などめったにない中で、それでも「ともに考え、ともに探り、ともにつくる」ためには、読者もその問いを一緒に考えたくなるような適切な問いかけが必要です。「私はこう思いました」というアイメッセージによる自己開示は「あなたはどう思いますか」という問いかけを含み、読者を「ともに考える」世界へと誘います。「ともに考える」を標榜(ひょうぼう)する朝日新聞にとって、それは「王道」とも言える手法ではないか、と私は思います。

 最後に、朝日新聞とのよりよいコミュニケーションを切望する読者の声をご紹介します。「新聞は大上段に構えて、正論を振りかざしがちだ。だが、この連載(「きょうだいたち」)は、人間的共感力に働きかけていくという姿勢に誠実さを感じた。こうした記事が本当に必要だ。上から振りかざしていくやり方のままだと、そのうちだれも読まなくなっちゃう。だからこそ、そういう連載のような書き方、心の持ち方を大事にしていってほしい」(30代・女性)

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 ゆあさ・まこと 社会活動家、法政大現代福祉学部教授。1969年生まれ。著書に「『なんとかする』子どもの貧困」「反貧困」など。

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