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 ■Vol.2 東京工芸大×朝日新聞

 これからの日本の医療・介護、教育、ビジネスにおける色との関わりを追究することは、社会的な課題解決に貢献する可能性を秘めている――。朝日新聞社が15大学と協力して展開するシンポジウム「朝日教育会議2018」の第2弾。「色」をキーワードに全学的な活動を展開する東京工芸大学が企画し、普段何げなく目にしている色の効果や社会的役割を考えた。

 【東京都千代田区の有楽町朝日ホールで9月17日に開催】

 

 ■基調講演 カラフルな魚、生きるため 東京海洋大名誉博士・さかなクン

 お魚には、いろんな色がありますが、それにはちゃんとした理由や生きるための意味があります。

 サケというと、全身がキラキラと銀色に輝いているイメージがありますが、これは成長盛りのころの色。大海原を旅しながらプランクトンを食べて、ぐんぐん成長する大切な時期です。

 でも、北の海には大きな天敵がいっぱい。ネズミザメ、シャチ、アシカなどから身を守るために、サケは銀一色になるのです。光がさんさんと輝く海面近くを泳ぐ時、このまぶしい輝きがお日さまの光に溶け込んで、敵に気付かれにくいと考えられています。

 そして、産卵のために川に戻ってくると、緑や赤、黄色の鮮やかで複雑なまだら模様が出てきます。ブナの木肌に似ていることから「ブナ模様」と呼ばれています。

 イワシ類やアジ類、トビウオ類など回遊魚のおなか側も、若い頃のサケと同じ理由で銀色ですが、背中は青のツートンカラーです。上から鳥が狙っていますので、背中は海と同じ色にして、目立たなくしているのです。

 生まれた赤ちゃんが、しばらくすると赤や緑、オレンジ、黄色などいろんな色に分かれていく不思議な魚がいます。ダンゴウオです。大きさがわずか2~3センチ、かわいいお団子のような丸い姿で、最近とても人気が出てきました。

 小さいうえに「かくれんぼ上手」でもあるので、今まで注目されてこなかったのです。鮮やかな色なのに、海の中では非常に見つけにくい。赤や緑のダンゴウオはそれぞれ赤や緑の海藻、オレンジや黄色のダンゴウオは同じ色の海綿におなかの吸盤でくっついて身を隠しているからです。

 これは、例えば赤い海藻が少ない年に赤いダンゴウオが目立って食べられてしまっても、他の色のダンゴウオには影響はない。生き残り手段の一つではないかと考えられています。

 ダンゴウオのような鮮やかな色は光の届く浅い海に暮らす「浅海魚」の特徴ですが、光がなくなる深海では色の必要がなくなります。水深400~500メートルの深さではギンダラ、クロムツなど黒っぽい魚が多くなります。更に8千メートルほどの超深海になると、マリアナスネイルフィッシュのように真っ白な魚がいることも知られています。

 私の印象としては、水の中で圧倒的に目立つ色は黄色。私・さかなクンの頭も黄色と青のハコフグちゃんです。卵を産む季節になるとオスのハコフグの側面は黄色、背中は青と鮮やかに発色します。「さかなクンはお魚にいつも夢中だよ! 恋しているよ!!」という思いを表しています。

     *

 さかなクン 東京海洋大名誉博士、客員准教授 2010年、絶滅したと思われていたクニマスの生息確認に貢献。多彩な色使いの魚のイラストは子どもたちに大人気。現在、「朝日小学生新聞」にて毎週土曜にコラム「おしえてさかなクン」を連載中。

 

 ■研究・教育の中心テーマに 常設ギャラリーも 東京工芸大

 今回の会議を企画した東京工芸大学は、「色」を大学全体のキーワードに据えて研究・教育活動を展開している。基調講演に続くプレゼンテーションで、義江龍一郎学長は「テクノロジーとアートを併せ持つ大学として独自の成果を出し、社会に貢献したい」と意義を語った。

 本格的な活動展開のきっかけは、学生が卒業制作として撮影した短編映像「紅」だった。ベニバナから紅の色素を精製する工程などを美しく描いた作品で、制作者の佐々木麻衣子さんが2016年の科学技術映像祭で最優秀の賞を受けた。テレビ局が作った多くの本格ドキュメンタリー番組を抑えての快挙だった。

 色を生かした活動の拠点が、常設ギャラリー「カラボギャラリー」だ。昨夏に開設。色に特化した研究成果を発表していく場である。半年に1回、子どもから大人まで楽しく体験的に学べる企画展もしている。

 教育会議では、色をめぐる大学の活動を野口靖教授が報告。カラボギャラリーの企画展については、実寸大の画像で展示されている古代エジプト王墓壁画などについて森山剛准教授が解説。人工知能(AI)などを使ったアートへの応用を久原泰雄教授が紹介した。

 

 ■パネルディスカッション

 筒井亜湖さん 東京工芸大学非常勤講師

 桜井輝子さん 東京カラーズ代表取締役

 木住野彰悟さん 東京工芸大学准教授

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 パネルディスカッションでは、色に関わる仕事をする3人がそれぞれの視点から色について解説、意見交換を行った。(進行は一色清・朝日新聞社教育コーディネーター)

     ◇

 ◆役割とは

 ――筒井さんから「人間の暮らしに色が果たす役割」の説明を。

 筒井 人間は、外界から得る情報の8割を視覚に頼っている。視覚を構成する大切な要素が「色」だ。

 人類にとって色は三つの役割を果たしている。モノがどこにあるかを把握する「発見」、そのモノが何であるかを判別する「認識」、さらに、そのモノがどんな状態か判断して適切な選択に導く「信号的意味の理解」だ。特に大切だったのが食べ物。何が、どこにあり、どんな状態か。人類の種の保存、繁栄、生命維持に必要な情報を色の違いによって知ることができた。色の知覚は今も大切な機能として保持されている。

 ――筒井さんは、色が人間の心に与える影響にも詳しい。「色に対し人間が感じる意味」は学問的にも研究が進んでいるのだろうか。

 筒井 研究は昔から行われている。時代や文化に関係なく共通する意味もあるし、文化、時代背景で異なる意味付けがなされる場合もあることが分かってきた。「赤」に温かさ、「青」に冷たさを連想させるのは人類に共通するようだ。一方で、例えばキリスト教文化に属する人は、紫に「死」を連想しやすいそうだ。日本文化では黒や白のほうが「死」を連想しやすい。

 ◆効能とは

 ――続いて桜井さんに「色の効能」について。有名な人物が色を使って情報発信をしているようだが。

 桜井 色を使って情報発信している人物がトランプ米大統領。赤いネクタイが非常に効果的だ。理由は二つある。一つは赤という色相が持つイメージだ。情熱的、パワフル、やる気。もう一つは少し青みがかったワインレッドという点で、彼の肌色と相性が非常によい。

 服の配色によるイメージの影響は、ニクソンとケネディによる米大統領選が有名だ。モノクロだった時代のテレビ討論会でケネディは、濃紺のジャケット、真っ白いワイシャツ、深紅のネクタイの装いで力強く爽やかな印象を与えた。

 ――色を使った情報発信は、我々でも使えそうだ。

 桜井 もちろん使える。例えばビジネスパーソンが謝罪に行く時、赤いネクタイを着用していったら、「本当にこの人、謝る気があるのか」と思われてしまう。おわびの時には地味で青系というのが常識。色の性質は私たちの生活に具体的なツールとして役立つと思う。

 ◆機能とは

 ――グラフィックデザイナーの木住野さんに。色を「機能」からみるとどう考えられるか。

 木住野 デザイナーにとって色の機能は、例えば区別・識別。男女のトイレの色の違いや、JR山手線の緑色と総武線の黄色の違いなど。アイデンティティーと関わるものもある。ドコモが赤ならauはオレンジ、後から出てきたソフトバンクはグレーなどだ。ただ、同じ色でも好きな人と嫌いな人がいるので、色が対象そのものへの好き嫌いにつながりかねない。デザイナーにとって色は「怖い」ものでもある。

 ――最近では「カラーユニバーサル」という考え方もあるそうだが。

 木住野 ユニバーサルデザインに「色」を加えた「カラーユニバーサルデザイン(CUD)」という考え方がある。色弱の方への対応で、自分が手掛けた小田急線の路線図のリニューアルも一例だ。

 例えば、色弱の方は色の認識がしづらいので、色分けされた路線のラインに色の名前を文字で入れるなどの工夫をする。一方で、色弱の方だけに対応すればよいわけでなく、それ以外の人も違和感なく見られるようにする。分かりやすさ、造形美の双方を大切にしている。

 ――3人の方に、それぞれの方の話を聴いて感じたことなどを。

 筒井 色は様々なことを私たちに教えてくれる。うまく操作できれば、ツールとして大きな可能性を秘めていると改めて実感した。

 桜井 色によって世界が変わって見える。季節の変化を色で感じることもその一つ。日本人は、色への感性が特に豊かな国民ではないかと改めて感じた。

 木住野 グラフィックデザイナーの立場から話したが、三者三様、色に対する考え方、関わり方が違うことがわかり勉強になった。

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 つつい・あこ 東京工芸大学非常勤講師 東京工芸大学、多摩美術大学、武蔵野美術大学において色彩学の講義を担当。視覚造形(配色や絵画作品)の評価について、心理学的な方法論を用いて研究を行っている。

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 さくらい・てるこ 東京カラーズ代表取締役 日本色彩学会正会員、環境色彩コンペティション「グッドペインティングカラー」審査委員などを務める。著書に「日本の色 売れる色には法則があった!」(朝日新聞出版)など。

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 きしの・しょうご 東京工芸大学准教授 アートディレクター、グラフィックデザイナー。企業や商品のブランディングをメインに、ロゴやパッケージデザイン、サインデザインなど幅広く手掛ける。2016年より現職。

 

 ■現代の課題に活用模索 高齢化社会や教育の現場で

 「色」は人間の生活と深く関わっている。日本においても、色は暮らしの中の大切な要素だ。建造物や乗り物に、景観に合った色彩が求められるのはその一例だろう。

 様々な課題を抱える日本の現代社会。色を戦略的に活用することで、課題解決に貢献できないものだろうか。

 試みは様々な分野でなされている。例えば超高齢社会への対応。「高齢者の心身に張りや希望をもたらす色」「病院や介護施設の安全性や快適性の向上に効果がある色」を現場に取り入れる活動が展開されている。グローバル社会を見すえて改革が求められる教育界でも、「勉強で最も集中力が持続する色」の実験が試みられている。人工知能や仮想現実(VR)などテクノロジーの世界でも「色」を開発にどう取り込むかは課題だ。

 各分野で進む色活用の試みを結集すれば、未来に貢献できる可能性はある。折しも2020年に東京五輪・パラリンピックがある。情報発信するのに「色」を生かさない手はない。映像・写真・印刷技術の革新も期待される。チャンスはすぐにやってくる。

 

 <東京工芸大学> 「小西写真専門学校」を前身とし、写真表現・技術の分野では国内で最も伝統がある高等教育機関。メディア画像学科・建築学科などがある工学部と、日本では数少ない写真学科、マンガ学科などがある芸術学部を併せ持つ。東京都中野区と神奈川県厚木市の2カ所にキャンパスがある。2023年に100周年を迎える。

 ■朝日教育会議

 国内外で直面する社会的課題への解決策を模索して広く発信することを目指し、15大学と朝日新聞社が協力して開催するシンポジウムです。

 共催大学は次の通りです。

 青山学院大学、神奈川大学、神田外語大学、関東学院大学、京都精華大学、聖路加国際大学、拓殖大学、中央大学、東京工芸大学、東京女子大学、二松学舎大学、法政大学、明治大学、明治学院大学、早稲田大学(50音順)

 12月まで、1大学1会議で開催。各会議の概要と申し込みは特設サイト(http://manabu.asahi.com/aef2018/別ウインドウで開きます)から。

 各会議の模様は今後、新聞本紙などでも随時掲載していきます。

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