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 東京都内で9月24~26日に開かれた国際シンポジウム「朝日地球会議2018」(朝日新聞社主催)。最終日の議論の模様を前日に続いて紹介します。最新の情報通信技術によって、人と人のコミュニケーションや社会生活はどう変わるのか。最前線の現場を報告するほか、有識者の意見やコーディネーターを担った記者らの見方も掲載します。

 ■限りある資源で不足ない生活へ ドーナツ経済学から見える世界

 地球の環境を保ちながら、世界中の人々が不足のない生活を送るために――。ドーナツの図を用いて21世紀のための経済学を提唱している経済学者のケイト・ラワースさんが、世界を再設計する必要性を訴えた。

 2重の円を描いてみよう。小さい方の円の内側、ドーナツの穴の部分は、食糧や健康、教育、政治的な発言力などの不足を表す。大きい円の外側は、地球環境の破壊を示す。二つの円の間、つまりドーナツが、人類にとって安全で公正な範囲だ。ここにとどまることができるよう、政治や経済、暮らし方を変えていかなくてはいけない。

 地球環境では九つの要素のうち気候変動など四つで、すでに限界を超えている。尊厳のある生活ができていない人も大勢いる。ラワースさんは、経済活動を環境再生産的(循環型)で、再分配型なものに設計し直す必要があると訴えた。とりわけ企業の役割の大きさを強調した。

 環境再生産的な商品の例として、修理方法がネットに公開されていて部品が入手できるスマートフォン、リサイクル糸で作るスポーツ用品を挙げた。再分配型の事業としては、利益を従業員に分配する英国のスーパー、コーヒー豆の焙煎(ばいせん)を産地で行うオランダの会社などを紹介した。

 「事業をどう展開すれば、地球の生命体や人類に恩恵をもたらすことができるか」。そう考えるのが21世紀型の企業で、自社の利益と株主を最優先するのは20世紀型の企業だという。

 ドーナツ経済学は、人々の基本的なニーズを満たしながら、地球の限られた資源の範囲内で身の丈にあった生活をするために考えられた。「21世紀のコンパスに」と、ラワースさん。それを使う人が日本で増えていくことへの期待と希望も語られた。

 ■「21世紀のコンパス」私たちの手に

 ラワースさんがドーナツの概念を発表したのは2012年。所属していた国際NGO「オックスファム」のリポートだった。反響を呼ぶなかで従来の経済学に対する考察などを加えて出版したのが17年。日本語版「ドーナツ経済学が世界を救う」が今年はじめに出され、初来日となった。

 ドーナツの図が歓迎されたのは、持続可能な世界の姿をイメージとして共有できるからだ。それらを実現するための、政治の方向性としてもわかりやすい。

 「21世紀のコンパス」は、私たち一人ひとりが手にしている。暮らしを考え、何かを選び取る時に役に立つだろう。社会や世界の現状を理解するためにも使い、未来への責任を果たしていきたい。

 (コーディネーター・北郷美由紀)

 ■人の営みと環境保護、両立探る 次世代につなぐ生物多様性――鳥を守る

 里山など人の手が入ることで形づくられていた自然環境が、人間活動の縮小によって変わり、そこにすんでいた生物が減っていく。人口減少の時代、開発や乱獲による直接的な生態系の破壊とは異なる生物多様性の危機をどう乗り越えるべきか、議論を交わした。

 動物画家だった故・薮内正幸さんの原画を展示する美術館の館長を務める藪内竜太さんは、原画を示しつつ、「絵を鑑賞するだけでなく、一人でも多く、生き物に興味を持つ人が増えてほしい」と自身の思いを語った。美術館は自然豊かな山梨県北杜市にあるが、地元の子どもも自然に触れる機会が減っているといい、「親の世代が体験していないと、子どもにも伝わらない。私たちも、自分が住む地域のよさを認識する必要がある」と話した。

 日本野鳥の会理事長で、NPO法人オオタカ保護基金代表の遠藤孝一さんは、里山にすむタカの仲間でカエルやトカゲなどをえさとするサシバが、農業の変化や耕作放棄などにより激減したと指摘。サシバが多く生息する栃木県市貝(いちかい)町の里山に移り住み、環境と地域経済の両立を目指す自らの活動にふれ、「鳥を守ることより、まず人のことを考えること。そこで人が暮らせて、かつ自然も残せることに小さなことでも取り組みたい」と述べた。

 中央大学教授で、保全生態学が専門の鷲谷いづみさんは「人が住むところに水田という湿地があったことが、日本の生物多様性が豊かだった一因」と話した。一度は国内での野生個体の繁殖が途絶えたコウノトリなど、水鳥をシンボルとして環境保全型の農法を復活させ、コメのブランド化にもつなげる活動が広がりつつあることを紹介し、「これを共生型稲作と呼びたい。すごく発展してきている」と期待を寄せた。

 ■人口減、問われる地域の選択

 開発か保護か。多様な生き物を育んできた日本の自然は、そんな明解な二項対立だけでは議論できない危機に陥っている。

 いまでも、直接的な環境破壊の脅威は消えてはいない。一方、身近にあった自然が、人が遠ざかることで静かにかたちを変え、ありふれていた生き物が激減した。里山にすむタカ、サシバの減少はその象徴だ。

 人口減少は加速し、耕作や営林の放棄も広がるだろう。放置しても以前の環境が戻るわけではない。すべての里山を維持できないなら、どこに手を入れて保っていくのか、地域の選択も問われる。未来に豊かな生態系を残せるか。いまを生きるわたしたちの責任は重い。

 (コーディネーター・山田史比古)

 ■特別講演 都会・奥山・里山を守る体制整備 山田健・サントリーホールディングスコーポレートサステナビリティ推進本部サステナビリティ推進部チーフスペシャリスト兼サントリーグローバルイノベーションセンター水科学研究所主席研究員

 サントリーの商品はすべて自然の恵みから作られています。だから自然を守るのは当たり前のこと。1973年、まず「愛鳥キャンペーン」を始めました。

 鳥には翼があるので少しでも環境が悪くなればその場所から飛び去ってしまいます。つまり、鳥は環境のバロメーター。鳥がすめないような環境に人間が住めるだろうかという問いかけをしたのです。

 そのうちに、夢のある環境活動を続ける国内外の団体と出会いました。彼らの夢がしばしば資金の不足を原因に挫折していることに気付かされ、活動費を助成しようと設立したのが「サントリー世界愛鳥基金」です。

 ほかにも、森林整備を目指す「天然水の森」で「ワシ・タカ子育て支援プロジェクト」に取り組んだり、愛鳥基金に「水辺の大型鳥類保護」部門を新設したりしています。いまでは都会、奥山、里地・里山という三つの環境を守る体制が整いました。

 夢に翼を。今後もそんな思いで「夢のある活動」のお手伝いをしていきます。

 (17面に続く)

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