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 (15面から続く)

 ■AI音声翻訳が開く未来~「言葉」と「心」の壁を越えて

 日本を訪れる外国人が急増し、少子高齢化に伴う人手不足を背景に、日本で働く外国人の数も史上最多となった。外国人と接する機会が増えている。

 とはいえ日本人でも、お互いを知らないと打ち解けられないこともある。そこでお笑いコンビ、パックンマックンの呼びかけで来場者同士が自己紹介。「週末にやったこと、自分に関する情報、行ってみたい国」を話題に、ほぼ満席の会場は会話の渦になった。

 「心の扉を開くことは意外に簡単。でも開きにくいこともある」とマックン。立ちはだかるのは、やはり言葉の壁だ。

 愛媛県国際交流協会の大森典子さんが、タオルや造船など地場産業を支える技能実習生の「勤務時間や待遇をきちんと知りたい」という思いや「日本の学校の独特の文化・言葉遣いは外国人にまったく通じないことがある」という留学生家族の悩みなどを紹介した。

 そうした課題を解決するため、コンピューターによる自動翻訳の研究を長年続けてきたのが、情報通信研究機構フェローの隅田英一郎さんだ。人工知能(AI)による深層学習と呼ばれる技術で翻訳精度が大きく向上し、実用に近づいていることを報告した。

 実際、「空港でスーツケースを置き忘れた人がタブレット端末に中国語で話しかけ、日本人が助ける」という設定のデモでは、翻訳のスピードも精度も高かった。「翻訳エンジンは30言語に対応しており、しかも不眠不休で働きます」と隅田さん。ただ文学の翻訳などは苦手だという。

 続くディスカッションでは、大森さんが「技術が全てではなく、日本社会が本当に外国人と一緒に生きていく雰囲気かどうかが大事。『考え方を変えていかないと』とすごく感じます」と話した。

 ■「補助輪」で「心の壁」越えよう

 討論の最後にパックンが言った「補助輪」という言葉がとても印象に残った。

 私自身、高校の英語の授業で苦労した記憶があるし、自動翻訳がさらに進化すれば「外国語学習のしんどさから解放されるかも」と期待する人も多いだろう。隅田さんによると、自動翻訳の精度は人間を上回ることもあるそうだ。

 だがパックンは、むしろ自動翻訳を「人と触れ合うこと、人と交流することのきっかけになればいい」という。「補助輪がついているからこそ、自転車に乗ってみよう」と。なるほど。

 技術をうまく使う一方で自分たちも挑戦を続けていく。そういう姿勢が「心の壁」も乗り越え、社会をよりやさしいものに変えていく力になるのだろう。(コーディネーター・勝田敏彦)

 ■家電がデータ収集、理論に基づくケアへ AI・IoTが変える介護の未来

 世界一の超高齢化と人口減少が同時に進む日本で、公的な介護サービスを維持するためには何が必要なのか。財源にも、支える人材にも限りがある。例えば、人工知能(AI)、あらゆるものがネットにつながるIoTの技術を活用すれば、この課題を克服することができるのだろうか。

 国際医療福祉大学大学院教授で、前厚生労働省介護支援専門官の石山麗子さんは、ケアマネジャーの経験を生かし、厚労省でAIケアプランの研究に携わった。その結果から「AIが膨大な介護データを学習してケアプランをつくっても、データが理論に基づいていなければ、ケアマネジャーがAIが導いた答えを説明することは難しい」と問題提起した。

 並行してケアマネジメントの標準化に取り組んだ。要介護の原因になった脳血管疾患などの疾病ごとに標準的なケアをつくり、「自立支援を目指す効率的で無駄のないケアを目指すべきだ」と言う。

 70カ所のデイケアセンターなどを運営するポラリス(兵庫県宝塚市)のCEOで医師免許をもつ森剛士さん。目指すのは要介護者の自立支援で、5年間に約500人を介護保険から「卒業」させた。

 「歩けるようになるには歩かないと。そのためには脱水予防で水を飲み、栄養・睡眠をとり、薬を飲み過ぎないようにする。経験ではなく理論に基づくケアが必要だ」という。

 パナソニックビジネスイノベーション本部事業開発センターの山岡勝さんは「パナソニックの技術を使って、今のお世話型の介護から、科学的データに基づいた自立支援型の介護を確立したい」。施設の部屋にあるエアコンの稼働状況などから入居者の1日の動きや睡眠などのデータを集め、ケアプランに生かそうとしている。

 ■自立めざす介護、ノウハウを強みに

 登壇者3人の話を聞き、介護への考え方を改めなければならないと思った。介護とは、高齢者の衰えた身体能力を補い、生活を手助けすることと思っていた。身体能力は現状維持で御の字で、いずれは衰えていくものと考えていた。

 だが、違った。彼らの目指す介護とは自立支援であり、要介護ではない、つまり1人で生活できる「復活のための介護」だ。要介護度の改善、介護保険からの「卒業」の意味を考えさせられた。

 過去5年間、森氏のデイサービスに通った高齢者約500人が介護保険から卒業し、社会保障費13億円相当を減らしたことになるという。このノウハウは広く共有すべきだし、課題先進国・日本の強みになる。(コーディネーター・多賀谷克彦)

 ■特別講演 芸術文化立国へ、VRで体験も 中尾光宏・凸版印刷取締役常務執行役員ソーシャルイノベーションセンター長

 2017年の訪日外国人は約2869万人、就労外国人や留学生も増加しています。そんなグローバル化の中で、凸版印刷は日本語の意味を正確にタイムラグなく訳し、さらに専門用語を豊富な語彙(ごい)で伝えられるように努力してきました。

 そのひとつが、スマートフォンなどで会話を聞き取り、瞬時に音声で翻訳するサービス「ボイスビズ」です。30言語に対応し、接客や外国人就労者との会話など様々な現場で使われています。それぞれの仕事に固有の専門用語をサーバーに登録し、わかりやすい言葉で訳すことができます。

 多国籍な子どもたちが学ぶ学校向けには、学校固有の語彙を搭載した「ボイスビズフォースクール」があります。保護者の方が日本語を話せない場合の家庭訪問などでも活躍します。

 翻訳にとどまらず、日本文化をVR(仮想現実)などで体験できる施設「ニッポンギャラリー」を開設しました。音声翻訳のみならず文化を解説することで、日本の芸術文化立国に貢献していきたいです。

 (16面に続く)

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