(社説)免震装置不正 徹底的な解明を急げ
安全を守るための装置の品質に、長年にわたる不正があった。衝撃は大きい。
油圧機器大手のKYBが免震・制振装置の検査データを改ざんしていたと公表した。免震装置では大臣認定の基準を満たさない製品が499本、顧客に約束した基準を外れたものが1914本、調査中のものが5137本あり、合わせれば出荷総数の7割を超えるという。
不正もしくは疑いのある製品を使っている建物は1千カ所近い。病院、役所、大規模な商業施設など、不特定多数の人が日頃出入りする建物も多い。なかには「地域の減災・防災機能の拠点」とされる施設もある。
会社の説明によれば、記録に残っているもので2003年から不正があり、少なくとも8人の検査員が口頭で引き継いできたという。本来は、基準から外れた製品は分解・調整し、再度検査するのが適正な対応だが、それには約5時間かかるため、検査データを書き換えていたとされる。
KYBは、独立性のある外部調査委員会を設けて、事実関係の調査や原因分析を進め、再発防止策の提言も受けるという。建物の安全を担う装置の製造現場が、なぜここまでむしばまれてしまったのか。徹底的な究明が必要だ。不正の関与者はもちろん、長期間、大規模な不正を招いた経営の責任も厳しく問うべきだ。
不正が確認されたものの中から、特に基準からの隔たりが大きい装置を使っている建物7物件を選んで、第三者に検証してもらったところ、震度6強から7程度の地震にも十分耐えられるという結果がでたという。
ただ、現時点では不正の全容が解明されているわけではない。不正品をすべて交換するには2年近くかかると見込まれているだけに、該当する物件の安全性について、十分な検証を急ぐ必要がある。建物の所有者や利用者の不安にも丁寧に答えなければならない。
近年、製造業での長年にわたる品質不正の発覚が相次ぐ。3年前には東洋ゴム工業の免震ゴムでの性能偽装が明らかになった。経団連は昨年末、品質にかかわるデータ改ざんなどの不正がないか、会員企業に実態調査を要請した。しかし、KYBはその時の調査では、今回の問題を把握できなかったという。
かつて日本企業の製品は「過剰品質」とも言われたが、実態が「架空品質」であったとすれば、ものづくりへの信頼が崩れてしまう。各企業は改めて点検しなければならない。
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